研究課題/領域番号 |
20K03689
|
研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
川上 竜樹 龍谷大学, 先端理工学部, 教授 (20546147)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 動的境界条件 / 外部領域 / 分数冪 Hardy-Henon 方程式 / Joseph-Lundgren 指数 / 高階放物型方程式 / 可解性 |
研究実績の概要 |
本年度は研究実施計画に従い, まず, 動的境界条件付き拡散方程式の拡散極限, 特に領域が単位球の外部領域である場合について考察を行った. 本研究は半空間上において同様の問題を考察した東京大学の石毛和弘氏, コメニウス大学の Marek Fila 氏, Johannes Lankeit 氏との共同研究の継続研究であり, 今回も共同で行った. 結果としては, 半空間の場合と同様に対応する動的境界条件付き Laplace 方程式の解に収束すること, また, ここで得られた収束の速さが最善であることを示した. ここでは領域が球の外部領域であることを利用し, 対応する熱核やその微分の評価を精密に行うことにより, 最適な評価を得ている. これにより, これまで同様の結果が得られていた半空間のみならず, 球の外部領域に対しても非線形問題への応用の足掛かりができたと言える. 次に挙げられるのが分数冪 Laplacian を有する非線形楕円型方程式, 特に非線形項に空間に対する重みを有したいわゆる Hardy-Henon 方程式の解構造の研究である. これについてはこれまでに慶應義塾大学の生駒典久氏, 早稲田大学の長谷川翔一氏と共に, 特定の条件下における解の非存在性を既に得ている. ここでは Joseph-Lundgren 指数を中心に, 安定な特異定常解の存在, 球対称解の層構造, さらに通常の Laplacian の場合には現れない臨界指数の非一意性を示した. この結果は現在投稿中である. さらに, 反応項に微分項を含むような高階放物型方程式の可解性についても石毛氏と東北大学の岡部真也氏と共同研究を行い, これまでの多くの研究成果を包含する一般的な条件の下で, 解の可解性に対する十分条件を与えた. この結果も現在投稿中である.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の実施計画に則して行った単位球の外部領域における動的境界条件付き拡散方程式の拡散極限に対しては, 当初想定した結果を得ることができた. これはコロナ禍において海外渡航ができなかったことを考えると十分なものである同時に, これまでの連携があってこそなし得た成果であると言える. また, 反応項に微分を含む高階放物型方程式に関しても, 可解性の必要条件の同定や漸近挙動の解明については残っているものの, 十分条件については一般的な条件の下で与えられており, 順調に進展していると言える. さらに, 分数冪 Hardy-Henon 方程式の解構造については, 当初予想していなかった臨界指数の非一意性についても得られており, 上記の点のみを考えると,"当初の計画以上に進展している" とも考えられる. 一方で, 先にも述べたように, コロナ禍において, 海外渡航はもちろんのこと, 国内における研究連絡すら対面で行うことができず, オンラインでの議論やメール等でのやり取りのみになってしまった. また, 予定していた国際研究集会も全てキャンセルとなってしまい, 最新の研究成果の情報収集や国外の専門家との議論の機会が失われたことは研究の進捗に大きく影響したと言える. 以上のような背景から, 本年度については研究目的に対して"おおむね順調に進展している"と言える.
|
今後の研究の推進方策 |
まず, 第一に半空間において指数型非線形項を境界条件に有する拡散方程式の可解性と漸近挙動について考察する. この問題は指数型非線形項を有する動的境界条件の非線形問題を考察するにあたって, その比較対象として避けて通れないものである. 同様の問題は全空間において考察されており, ミラノ大学の Elide Terraneo 氏, ベルガモ大学の Giulia Furioli 氏と共同で研究を進めていく. 次に, 特異または退化する係数を有する放物型方程式の可解性について考察する. これは静岡大学の藤嶋陽平氏, ジョンズホプキンス大学の Yannick Sire 氏との共同研究の継続研究にあたるものであり, 今回についても共同で行う. 最終的にはこの問題における爆発現象の解明を目指す. 上記2つについては, 共同研究者が国外にいるため, 現在の状況下においては渡航が困難であることから, メールや Zoom 等のオンラインツールを利用して研究連絡を密にとっていく予定である. さらに, Half-Laplacianを有する粘性Hamilton-Jacobi方程式の modulus of continuity についても解析を進める. これは東北大学の岩渕司氏との共同研究の継続研究にあたるものである. 動的境界条件は分数冪拡散と非常に密接に関係しており, 非線形項とのバランスにおいて臨界状態にあたる本問題の解析は動的境界条件下における非線形問題の解の性質の解明に大きな示唆を与えるものであると確信している. 本研究についても岩渕氏と共同で進めていく. これについては国内での共同研究であるため, 国外に比べて対面での議論が可能であると考えているが, オンラインツールでの議論も合わせて検討していく.
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナの影響により, 本年度参加を予定していた国内外の研究集会のほとんど全てがキャンセルになったことにより, 当初予定していた旅費が執行できなかった. また, 計算機については, デスクトップ型の購入を検討していたが, 大学の入校制限時においても継続的に研究を行うにあたり, 持ち運びが可能であるノート型の購入に切り替え, 論文執筆や講演準備等に必要な標準的な仕様のものを購入した. 一方で, オンライン講演会に際して講演者の旅費の補助に代わり謝金を提供し, また, 討論会場の提供のためにオンラインツール使用料が発生したが, 上記の旅費や物品費を超えるものではなかった. 以上より, 多額の次年度使用額が生じているが, 今般のコロナ禍においては回避不可能な状況であったと考えられる. 次年度の使用計画としては, まずはオンライン講演会の機会の増加に際した適切な環境構築のための計算機周辺機器の購入があげられる. これにより講演会のみならず, 研究連絡に関しても従来よりもより良い環境を目指す. また, 国内においては状況を鑑みながらも可能な限り対面での研究連絡や研究集会への参加を行う. さらに研究の進展に合わせて必要となる専門書の購入に充てる.
|