研究課題/領域番号 |
20K03692
|
研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
野邊 厚 千葉大学, 教育学部, 准教授 (80397728)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | クラスター代数 / 一般化カルタン行列 / 可積分系 / 保存量 / 双有理写像力学系 |
研究実績の概要 |
クラスター代数は、種子(変数と行列の組)に対して変異とよばれる操作を適用することで構成される可換代数である。変数にはクラスター変数と係数という二種類が存在するが、いずれも新旧変数の双有理関係式(交換関係)にしたがって変異し、種子のもう一つの構成要素である交換行列がこの交換関係を定める。この構成方法から、クラスター変数は最初の種子に含まれる有限個のクラスター変数の可約有理式となる。有理式は一般に局所的にローラン級数に展開されるが、クラスター変数は大域的にローラン多項式となるという著しい性質をもつ。可約有理式であるクラスター変数の既約化の際に「大規模な約分」が起こるため、分母は常に単項式となるのである。一方、「大規模な約分」は離散可積分系においても普遍的に観察され、可積分性の鍵となる現象と認識されている。また、クラスター変数のローラン多項式には負号が現れないことも示されており、これらの性質をまとめて、クラスター変数の正値ローラン性とよぶ。このような背景を踏まえ、本研究においては「正値ローラン性と可積分性との間には深い関係があるのではないか」という問題意識に基づいて研究を進めている。 研究計画の初年度である今年度は、一般化カルタン行列(GCM)と対応付け可能であるという交換行列の特性を用いて、クラスター変異のGCM型による分類を試みた。とくにA(1)N型交換行列から導かれるクラスター変異を考察し、その周期性に着目することで、対応するN+1次元双有理写像力学系のN+1個の保存量を具体的に構成した。この事実からA(1)N型変異が可積分性をもつことがしたがう。さらに、対応する力学系を線形化することで一般解を構成し、その一般解からクラスター変数の一般項を具体的に構成した。この研究成果により、アフィン型GCMに対応する一般ランクの可積分なクラスター変異が存在することが示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」で述べたように、A(1)N型GCMに対応するクラスター変異からN+1次元双有理写像力学系を導出し、その周期性に着目することでN+1個の独立な保存量を具体的に構成した。この保存量を用いると力学系を線形化することが可能であり、線形化を通して力学系の一般解を求めた。また、係数の変異から導出される力学系も同様に可積分であり、保存量を用いてその一般解を構成することができる。これら二つの力学系の一般解からクラスター変数の一般項を構成することを通して、A(1)N型クラスター変異の可積分性を示した。この研究成果は研究代表者らによる先行研究(A(1)1型クラスター変異の可積分性の証明)の一般ランクへの拡張であり、本研究計画における予想「有限型/アフィン型GCMに対応するクラスター変異は可積分である」に対するポジティブな結果である。こうして予想の解決に向けた第一歩が順調に踏み出せたことなどから、本研究計画はおおむね順調に進展していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
研究代表者らによる先行研究で示したように、A(1)1型クラスター変異とA(2)2型クラスター変異は共通の不変曲線をもつ可積分系であり、それらは共通の不変曲線上の力学系として可換である。今年度の研究によって、A(1)1型の一般化であるA(1)N型クラスター変異の可積分性を示すことができた。今後はA(2)2型の一般化であるA(2)2N型(もしくはA(2)2N+1型)クラスター変異の可積分性を示すことを試みる。研究推進の方策としては、A(1)N型と同様に、変異の周期性から保存量を構成するという手続きを適用する予定である。また、A(2)2型変異もA(1)N型変異と同様に線形化可能であるため、その一般化であるA(2)2N型変異も線形化可能ではないかと考えられる。線形化可能であればこれまでの研究で培った手法の多くがそのまま適用可能である。さらに、A(2)2型変異とA(1)1型変異が可換であるのと同様に、A(2)2N型変異とA(1)N型変異も可換であると期待されるので、その可換性についても考察する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
今年度はコロナ禍による影響で多くの研究集会・学会・セミナーなどが中止となり、当初予定していた旅費を全く使用できなかった。そのため上記のような次年度使用額が発生した。次年度についても、研究集会等参加のための出張については不透明な部分があるため、旅費の消化ができるかどうか一抹の不安がある。旅費として使用予定であった予算の一部をオンラインでの研究打ち合わせや研究発表を円滑に行うための設備などの購入費用(物品費)に充てることも検討している。
|