研究課題/領域番号 |
20K03698
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
前川 泰則 京都大学, 理学研究科, 教授 (70507954)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 偏微分方程式 / 流体力学 / Navier-Stokes方程式 / 境界層 / 解の漸近挙動 |
研究実績の概要 |
Navier-Stokes方程式の粘性消滅極限問題は,高Reynolds数流体の研究の雛形である一方,数学解析の難しい問題として知られている.特に,流体と固体壁との相対速度が零となる粘着境界条件が満たされる場合には,境界付近において高いReynolds数を反映したPrandtl境界層が典型的に現れ,境界層に潜在する強い微分損失構造により,境界層近傍において解の定量的評価を確立することが難しくなる.研究代表者によるこれまでの研究において,境界層の主要部が単調凸shear型であるならばGevreyの3/2のクラスにおいて粘性零極限においてPrandtl境界層展開が成り立つことが示されていた.本研究の目的の一つである,「境界層の主要部がshear型である」というこれまでの仮定を取り除き,境界接方向の変数にも依存した境界層についても,Gevreyの3/2のクラスでPrandtl境界層展開を証明することに成功した.証明にあたっても,既存の手法が大幅に改善され,重み付きエネルギー計算に基づくよりrobustな証明手法を確立することができた.また,初期時刻においては境界層がなく,粘着条件によって境界層が正の時刻に形成されるような場合においても,shear流れの近傍ではPrandtl境界層展開がGevreyの3/2のクラスで成り立つことを示した.これは境界層の形成の安定性についての最初の結果である.また,この場合に生じる初期層と微分損失構造の関係を本研究により理解することができた.この結果をshear型とは限らない場合に拡張することは今後の課題である.今年度の研究成果は論文としてまとめられ,査読付国際誌に投稿中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
境界接方向変数に依存した一般の境界層周りの流れについて,境界層が単調かつ凸であるならばGevreyの3/2のクラスにおいてPrandtl境界層展開が成り立つことの証明に成功した.また,境界層の形成の安定性についてもshear型流れの近傍については同様の結果を証明することができた.
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今後の研究の推進方策 |
境界層の形成の安定性について今年度得られた結果をshear型とは限らない場合に拡張する.また,本研究課題のもう一つの目的である,柱状物体周りにおける一様背後流とcontact point を伴う自由境界問題について数学的研究を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染拡大により,予定していた国内外の出張をキャンセルせざるを得なくなったため,次年度使用額が生じた.今年度も新型コロナの状況を見極めつつ科研費を使用する予定である.
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