研究課題/領域番号 |
20K03701
|
研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
杉江 実郎 島根大学, 学術研究院理工学系, 教授 (40196720)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 関数方程式論 / インパルシブ効果 / 数理モデリング / 相平面解析 / 振動性理論 / 安定性理論 / 国際研究者交流 / 中華人民共和国 |
研究実績の概要 |
令和2年度に国際学術誌に掲載済みまたは投稿中の論文の概要は以下の通りである。 (a) 振動性理論 2階線形微分方程式の非自明解は、すべてが振動するか、すべてが振動しないかのどちらか一方であることがよく知られている。本研究では、このような2階線形微分方程式に、どの程度のインパルスを与えれば、すべての解が非振動から振動へ変化するのかについて考究した。大きなインパルスを与えれば、そのような変化が起こることは容易に想像がつく。本研究の目的は変化を起こすできるだけ小さなインパルスの量である。また、変化を起こすインパルスの量によって、2階線形微分方程式が分類できることも示した。 (b) 安定性理論 非線形振動子の平衡点が一様大域的漸近安定になるための条件を解明した。平衡点の一様大域的漸近安定性とは、初期値に関わらず任意の解が平衡点に収束することであり、その収束スピードは初期時刻に関わらないことを意味する。したがって、一度、実験等で、任意に初期値と初期時刻を決めた解の平衡点への収束スピードが分かれば、初期値が同じでありさえすれば、別の初期時刻をもつ解も同じスピードで平衡点に収束する。その意味で、実世界での応用上において、非線形振動子に関する極めて有意義な解の性質である。 (C) 生態系モデル解析 ロトカ-ボルテラ捕食者・被食者モデルでは、任意に初期データ(初期時刻と初期時間)を決めれば、その後の解の挙動は周期的であることがよく知られている。したがって、捕食者と被食者の密度は大きく増減を繰り返し、ある時点で激減することが起こる。しかし、実際の現象では、捕食者と被食者がバランスをもって共存共栄することも多い。これは両者の密度が内部平衡点に漸近することを意味する。本研究では、この現象は、断続的なインパルスによって引き起こされていると考え、両者の密度が内部平衡点に漸近するための条件を得た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度にあたる令和2年度は順調に研究が進み、研究成果は【研究実績の概要】の欄に記した3編の論文にまとめることができた。ただし、新型コロナウイルスの世界的蔓延の影響により、投稿した雑誌の査読作業が遅々として進まず、令和2年度中に掲載決定した論文は(C)に関する1編のみであった(現状では、掲載決定した論文は Web 上で公開され、他の2編は査読審査中である)。また、令和元年度末から新型コロナウイルス感染が続いていたので、令和2年度も国内外への移動が困難であったため、国外講演はできず国内講演も控えなければならなかったことは残念であった。しかし、論文の生産状況からは判断して、本計画は良好に進行していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
基本的には、交付申請書の「研究目的、研究方向など」の(3)本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか、に記載した内容に沿って、本研究を進める。令和3年度は、以下の3つの課題解決を図る。 (a) 振動性理論 令和2年度末に、インドの研究者から共同研究の申し出があった。内容はインパルスをもつ差分方程式の解の振動性に関することである。この研究者は、本研究課題ではなく、平成29年度から令和2年度までに支援を受けていた科学研究費助成事業:課題番号17K05327によって得た研究成果に触発を受けたようだ。この内容はインパルス効果の影響を解明するという点において、本研究課題と無縁ではないので、連携して研究を進めることを同意した。 (b) 安定性理論 数理モデルのインパルシブ効果について考察するとき、インパルスが加わる時刻に着目する場合が多い(本研究代表者も数多くの研究成果を公表してきた)。このインパルスを time-dependent impulse と呼ぶ。これとは別に、数理モデルの変数がある量(状態)になったときにインパルスが加わるということも考えられ、このインパルスを state-dependent impulse と呼ぶ。本研究では、電気回路などでよく知られている van der Pol 方程式とその一般化に焦点を当て、後者のインパルスに影響について考究する。 (C) 生態系モデル解析 本研究の初年度に得られた非線形振動子の平衡点の一様大域的漸近安定性の研究成果を生態系モデルにも適用できるように拡張する。そのためには、本研究代表者が考案した変数変換が効果的であると考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染が続いていたので、令和2年度も国内外への移動が困難であったため、国外講演は全くできず、国内講演も控えた。また、同じ理由で、補助事業期間が令和2年度までの延長が許可された科学研究費助成事業:課題番号17K05327の経費の残額を優先的に使用したので、本研究計画の予算を令和3年度に残した。新型コロナウイルスの感染が終息次第、海外研究協力者等を日本に招聘するとともに、研究代表者である私の渡航費に繰越金を活用する。また、令和2年度以上に研究を活発に行い、【今後の研究の推進方策】に記した研究内容を論文にまとめ投稿する際に、英文をネイティブスピーカーに校正してもらうための経費に充てる。さらに、今後得られる研究成果を広く公開するために、ゴールデン・オープンアクセス誌に投稿するため費用を使途計画に組み込む。
|