研究課題/領域番号 |
20K03704
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
熊崎 耕太 長崎大学, 教育学部, 准教授 (30634563)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 多孔質媒体 / 自由境界問題 / 偏微分方程式 / 微視的領域 / 巨視的領域 / 数理モデル / 解の存在と一意性 |
研究実績の概要 |
コンクリートや吸湿材料などの多孔質媒体では、内部の微視的な変化が、ひび割れや剥離、膨張・収縮など物質全体に影響を与える。本研究では、微視的な変化を自由境界問題、物質全体の変化を偏微分方程式によって表し、それらの連立系の適切性を考察し、多孔質媒体の微視・巨視にまたがる変化を扱う枠組みを構築することが目的である。本年度は、1つの微視的な細孔に着目し、内部の変化を表す自由境界問題を考察することが目的である。得られた結果は以下である。 内部の微視的な細孔では、外から細孔に入る相対湿度によって、細孔内部の水分量の増加・減少が起きる。こうした現象に対して、細孔を1次元区間とみなしたうえで、水分の増加・減少を表す自由境界問題を考察した。この問題の特徴は、固定端では、入ってくる湿度と固定端における水分のバランスによって決まる境界条件であることと自由境界の速度を与える常微分方程式が、水分が広がる力とそれを抑制する力との差によって与えられていることである。こうした問題に対して、まず、水分の成長を抑制する効果を無視した場合に、時間局所解および時間大域解の存在と一意性を証明した。また、境界条件の形から通常の比較原理を用いることは難しいが、解の有界性や初期値や境界値に対する解の連続依存性を示した。さらに、自由境界の速度が、時間に関して常に非負であることを示し、時間大域的な挙動として、時間無限大において自由境界が無限大に発散することも示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、内部の微視的な細孔における水分の増加・減少を表す自由境界問題に対して、時間大域解の存在および解の時間大域的挙動を考察することが目的であった。本年度の進捗状況は以下である。 1. 水分の増加・減少を表す自由境界問題に対して、自由境界の成長を妨げる力を無視した場合に、時間局所解および時間大域解の存在と一意性を証明することができた。また、解の有界性や初期値や境界値に対する連続依存性も導出することができた。特に、時間大域解の存在では、解の最大存在時刻で、自由境界が固定端に着いてしまうとその存在を示すことができないが、自由境界の速度の非負値をうまく用いて証明した。 2. 自由境界の成長を抑制する力を無視した場合の解の時間大域的な挙動として、時間無限大において、自由境界が発散することがわかった。このことは、抑制する力を無視しているため妥当な結果であるが、これらの解析から、抑制する力を考慮した場合は、もし解が存在し、その解が有界であれば、自由境界が有限な長さまでしか成長しないこともわかった。 これらの結果から、本年度の進捗状況として、順調に進展しているものと考える。次年度は、多孔質媒体の1点に対して、1つの細孔が対応しているものと考え、無限個の自由境界問題の解の存在、およびその解が巨視的変数に対して可測であることを示す。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の進捗状況に基づき、次年度の研究を以下のように設定する。 1. 本年度は、自由境界の成長を抑制する力がない場合において、微視的細孔における水分の増加・減少を表す自由境界問題の解の存在を示した。この方法を応用し、自由境界の成長を抑制する力を考慮した問題に対して、時間大域解の存在を示す。特に、解の最大存在時刻において、解が固定端に触れてしまうと時間大域解が構成できないので、抑制する力が弱い場合など条件の見直しを図った上で、構成を試みる。 2. 自由境界の成長を抑制する力を無視した場合・考慮した場合、どちらの場合においても、自由境界問題の解が、巨視的領域において可測であることを示す。まず、初期値や境界値が連続である場合に可測であることを示す。次に、初期値や境界値が2乗可積分関数である場合は、連続である場合の極限を考えることで、可測性を示す。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度参加予定であった国際会議や国内および海外での研究打合せが、新型ウイルスのため中止となり、次年度使用額が生じた。次年度使用額については、翌年度分の請求額と合わせて、研究成果発表や研究打合せの費用に充てる。
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