研究課題/領域番号 |
20K03706
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研究機関 | 津田塾大学 |
研究代表者 |
菊池 弘明 津田塾大学, 学芸学部, 教授 (00612277)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 非線形シュレディンガー方程式 / 基底状態 / 爆発 / 散乱 / 閾値解 |
研究実績の概要 |
今年度は、浜野大氏(埼玉大)と渡邉南氏(津田塾大)との共同研究により、空間3次元で3次と5次の2重べき非線形シュレディンガー方程式の大域な挙動を解析した。このような解析においては、基底状態と呼ばれる方程式に対応する最小化問題の最小元が重要な役割を果たす。実際、これまでの研究により、基底状態よりも小さいエネルギーを持つ解については、散乱する(時刻無限大で線形の解に収束する)か爆発するかのいずれかであることが分かっている。 そこで、次の問題として、基底状態と同じエネルギーを持つ解の挙動はどのようになるかについて調べた。このときは、時間が正の無限大では、基底状態に近づき、時間が負の方向では、散乱する解と爆発する解が存在することが分かった。また、そのような正の時間と負の時間で異なる挙動をする特別な解の一意性も得ることが出来た。さらには、基底状態に等しいエネルギーを持つ解の挙動を、初期値がどの集合に属するかにより分類することが出来た。このことは、単純べきでは、Duyckaerts-Merle(2009)などにより知られていることだが、彼らの手法は、2重べきの場合は直ちには適用出来ないように思われる。ここでは、Nakanishi-Schlag(2012)により開発されたOne-pass theorem(no return thereom)というものを用いることでこの困難を克服することが出来た。 Akahori-Ibrahim-Kikuchi-Nawa(2021)においては、One-Pass theoremを用いて基底状態よりも大きいエネルギーを持つ解について調べられているが、ここで得た成果は、基底状態と等しいエネルギーを持つ解の大域挙動は初期値により分類できるということが新たな点である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
空間3次元で一方がソボレフ劣臨界、他方がソボレフ臨界である2重べきの非線形シュレディンガー方程式について、基底状態の存在・非存在については、概ね調べることが出来た。具体的には、ソボレフ劣臨界が3次以下のときは、ある臨界振動数が存在して、それより小さいときは、基底状態は存在し、それより大きいときは存在しないことが分かった。さらに、臨界振動数の時は、ソボレフ劣臨界が3次より真に小さい時は、基底状態が存在することを示すことが出来た。残りは、空間3次元で、ソボレフ劣臨界の項が3次のときの臨界振動数である。 また、定常問題の正値解の一意性が崩れることは、Wei-Wu(preprint)により証明された。彼らは基底状態と別の正値解があることを示した。この基底状態とは別の正値解は、彼らが考えたものとは異なる最小化問題の最小元であることが分かった。この新たに考えた最小化問題から、基底状態よりも大きいエネルギーを持つ解挙動の解析や定常問題の正値解の分岐の研究が進むのではないかと期待している。 それから、基底状態と同じエネルギーを持つ解の大域挙動については概ね理解することが出来た。これから中心多様体の理論などと組み合わせることで基底状態より大きいエネルギーの解の大域挙動などについて解析したい。 他方、初期値問題の解の非一意性や空間2次元における指数型非線形項を持つ楕円型方程式の解構造に関する研究は、コロナ禍にあり、共同研究者と直接議論することが出来ず、思うように進まなかった。今後はオンラインなどを駆使して議論をすることで研究を進めたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き2重ベキの非線形シュレディンガー方程式について調べる。最近, Wei-Wu(preprint)により、2つの正値定常解があるということがわかった。その正値解の一つは基底状態であり、これは ある制限付き最小化問題の最小元である。もう一つの正値解は、前の基底状態に関連する制限付き最小化問題にもう一つ制限を加えた最小化問題の最小元であることが分かった。 このもう一つの正値定常解について調べていきたい。この定常解については、漸近挙動が分かっているので、このこととこれまでの解析を用いて、非退化性などの様々な性質が調べられるのではないかと期待している。また、その定常解の近くから出発する解の大域挙動も解析する予定である。特に、これまでには見られなかった挙動をする解があるかどうかを調べたい。 これまで基底状態については色々なことが分かっているが、それに比べて、基底状態以外の定常解についてはあまり知られていない。その意味でも、これまで見られなかった現象が起きるかどうか調べるのは興味深い問題だと思われる。 また、これまで調べてきた方程式を一般的にして、上の結果と同様に正値定常解が2つ得られないかについても考えたい。上の結果での重要なポイントは、極限方程式であるAubin-Talenti関数という明示的に書ける解が自乗可積分関数ではない。そこで、方程式にあるラプラシアンの部分を重調和作用素に置き換えた場合についても、その極限方程式は、Aubin-Talenti関数と同様に明示的に書ける解がある。そして、空間次元が低い場合、その解は自乗可積分関数ではないので、これを用いて正値定常解の非一意性が得られないかを解析したい。このように一般的にすることで、総合的な理解をしたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスによる影響により、出張に行くことが出来なかったことが大きな理由である。使用計画のほとんどを旅費に充てていたため、次年度まで多くの額を繰り越すことになった。 2022年度は感染状況に注視しながら、国内を中心に出張して、研究を進めたいと考えている。
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