今年度は赤堀公史氏(静岡大)、Slim Ibrahim氏(ビクトリア大)、柴田将敬氏(名城大)、Juncheng Wei氏(ブリティッシュ・コロンビア大)との共同研究の下、2重べきの非線形楕円型方程式について研究した。この二重べきのうち、一つはソボレフ劣臨界指数であり、もう一つはソボレフ臨界指数であるものを考える。この方程式は、空間3次元のときは、通常と異なり、正値解の一意性が成り立たず、少なくとも2つの異なる正値解があることが分かっている。その二つのうち、一つは、基底状態と呼ばれるものであり、もう一つは、ある最小化問題の最小元である。 一つ目の研究成果は、この方程式の正値解の分類である。具体的には、振動数が低い場合は、正値解は基底状態、もしくは、前述したある最小化問題の最小元のどちらかであることを示した。つまり、正値解は、2つしかないことが分かった。この結果は、以下を示すことが証明の鍵となる。有界な解を適当なスケール変換を施すと、その関数は、振動数を0に極限をとると、よく知られたスカラー場の正値解に収束する。一方、非有界な解を別のスケール変換を施すと、その関数は、振動数を0に極限をとると、オーバン・タレンティ関数という明示的に書ける関数に収束する。 二つ目の研究成果は、正値解の一つである最小化問題の最小元に関するものである。具体的には、この最小化問題の最小元は一意であり、非退化であることを示した。ここで、非退化であるとは、この最小元まわりで定義される線形化作用素が非自明な0固有値を持たないことである。さらに、この最小元のモース指数を調べた。モース指数とは、大まかに言うと、線形化作用素の負の固有値の数(重複度を込めて)である。この非退化性やモース指数は、今後の課題である時間発展方程式の解の大域挙動を考える上で重要な役割を果たすため、今回の成果は意義があると思われる。
|