研究課題/領域番号 |
20K03719
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
籾原 幸二 熊本大学, 大学院先端科学研究部(理), 准教授 (70613305)
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研究分担者 |
丸田 辰哉 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (80239152)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | アダマール行列 / 強正則グラフ / 差集合 / 差集合族 / 2-交差集合 |
研究実績の概要 |
本研究では, Chen(1997)による3次元有限射影空間における2-交差集合を用いたアダマール行列の構成理論を高次元に拡張することと, その基本となる2-交差集合の一般化となる幾何/組み合わせ構造の発見を行うことを目的として研究を行った. また, Xia-Xia(2003)による1次元の2交差集合に対応する組み合わせ構造(差集合族)について, 詳細にその差分構造について明らかすることで, 新たなアダマール行列の構成法を与えることを目標とした. 本研究では, Xia-Xia(2003)が発見した差集合族の無限系列の一部分について, その差分構造を理論的に明らかにすることで, その差集合族を2倍に拡大できることを示した. また, これらがWallis-Whiteman arrayと呼ばれるアダマール行列の構成手法に適用することで, ある特別な素数qの系列に対し, 4(2q^2+1)位数の新たなアダマール行列の存在性を証明することに成功した. 新たな位数でのアダマール行列の存在性の証明, 特に, 4×奇数の次数のアダマール行列の存在性は, この研究分野では非常に難しいとされてきたことに鑑み, 今回の研究成果は非常に価値のあるものであると言える. この結果は, Leung氏, Xiang氏との共著の論文として国際学術誌に採択された. そのほかに, Turyn(1984), Chen(1997), Polhill(2010)によるPaley型のアダマール行列の合成的構成法が, 強正則グラフの構成法として一般化可能であることを証明し, その研究成果について, 単著として論文を執筆・投稿した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目的は, Xia-Xia(2003)による1次元の2交差集合に対応する差集合族について, それを高次元に拡張するため, その差分構造について明らかすることであった. その差分構造を明らかにすることについては, 計画通り, 計算機を併用した構造の解析, その特徴づけ・一般化という流れで研究を行い, 最終的にはXia-Xia(2003)の構成法を改良し, 新たなアダマール行列の構成法を提案することに成功した. この研究部分に関しては, 当初の研究の計画通りに進んでいる. また, Chen(1997)による3次元有限射影空間における2-交差集合を用いたアダマール行列の構成理論の高次元化については, 未だ計算機による結果から一般化可能な例が発見されていない. この部分に関しては, 当初の計画からは若干遅れている. 一方で, Chenの構成理論に関する研究の中で, Chenの2-交差集合がいくつかの他の2-交差集合の和として表現され, その性質がTuryn(1984)やPolhill(2010)による積構成法で保存されることを突き止めた. これにより, 強正則グラフの構成法として拡張することができたことは興味深く, 代数的グラフ理論の研究分野において価値のある結果であると思われる. 特に, 強正則グラフの大きな無限系列の存在性を証明できたことは, 非常に意義のあるものと考えられる. この観点では, 当初の計画以上に進んでいると判断できる. 総じて, おおむね順調に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
今後は, Chenの理論の高次元化については継続して, 計算機を併用しながら一般化可能な例の発見とその解析を行っていく. 特に, 高次元射影空間において, 数多くの例を発見するため, 既存の計算アルゴリズムの改良を図る. また, すでに高次元化されている小さな標数の場合に, 対応する2-交差集合の差分構造について明らかにし, 標数の一般化を図るという流れでも研究を推進していく. また, Xia-Xia(2003)による差集合族に対応して, 他のパラメータではLeung-Schmidt-Ma(2006)による差集合族も発見されているため, Xia-Xiaの差集合族に対し, 昨年度行った研究手法がLeung-Schmidt-Maによる差集合族に対しても適用できるかを調べ, 差分構造について明らかすることで, 新たなアダマール行列の構成法の提案を行う. これにより未知の位数でアダマール行列の存在性を示していく. 次に, 「アソシエーションスキームを用いた非均整アダマール行列の構成法の考案」についても部分的に研究を開始する. そのために, まずLeung-Momihara (2020)で得られた, 既存の非均整アダマール行列を2,3,5倍に拡大する構成法を拡張し, 一般の倍率で拡大するための一般的な枠組みについて整理を行う. そのために, 一般の均整アダマール行列に対し, 拡張する際に必要なアソシエーションスキームまたはその他組み合わせ構造の構造条件を既存の研究結果を一般化する形で明らかにしていく. 本研究内容に関して, 少なくとも2つ以上の国内・国際研究集会で研究発表を行いたい.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染症予防のため, 国内外の出張が, 当初の計画通り実施できなかったため次年度使用額が生じた. 次年度使用額のうち, 130000円は当初の予定通り分担者である丸田教授が使用する. 残りの金額に関しては, 今年度の使用計画に加え, 前年度分の国内外出張予定に沿って使用する予定である.
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