2023年度は、多重ゼータ値の行列のランク計算が受理された。更にBoolean多項式の連立方程式の公式におけるアルゴリズム開発と彩色問題への応用を考察した。前年度までは両者を同時に扱っていたが、考察すべき事柄が多くなったため、今年度は個別に考察した。前者のアルゴリズム開発では、グラフ理論で重要な特徴量である木幅を取り入れた。後者の彩色問題の応用では、有限体版の零点定理と関連するAlon-Tarsi多項式との対応を考えた。両者ともに発表する段階までには至らなかったが、次の研究の礎を築くことはできた。また人工知能の自然言語処理における文埋め込み(文をベクトル化する技術)において、共同研究者として論文の作成に貢献した。 本研究課題は多重ゼータ値と計算機技術の融合研究を目指していた。計算機は真と偽の2つの値の世界で展開されるため、融合しやすいという理由のみではあったが、多重ゼータ値の関係式の係数を有理数ではなく2元体上で考察した。しかし望外なことに、多重ゼータ値の関係式で階層化される線型空間には、引数が2または3のみの(Hoffman 基底と呼ばれる)多重ゼータ値を通して、フィボナッチ数列的な現象が現れることが計算機実験により分かった。実験で使用したアルゴリズムには、計算機工学の古典的問題である充足可能性問題の技術(CDCLと呼ばれる矛盾ベースの探索技術)が応用された。有理数体の場合では、階層化された線型空間は保型形式の次元と関連することが知られている。係数体を2元体に変更しても不可思議な現象が起こる事実は、多重ゼータ値の関係式の未知の謎を示唆し非常に興味深い。上記以外では、自然言語処理において単語をベクトル化する技術と検索等のプライバシィに関する論文を発表した。Boolean多項式の連立方程式の公式においては、計算量と彩色問題への応用をプレプリントとしてまとめた。
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