研究課題/領域番号 |
20K03732
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
宮寺 隆之 京都大学, 工学研究科, 教授 (50339123)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 量子論基礎 / 一般確率論 |
研究実績の概要 |
2021年度は同時操作不可能性に関して一般確率論を用いた研究と、量子論の枠内で行う研究の二つの成果をあげた。 前者の一般確率論に関する研究は、前年度に引き続き「状態準備に関する不確定性関係」と「同時測定に関する不確定性関係」の関係に関わるものである。前年度において、自己双対性を持つ状態空間で規定される系では、これらの不確定性関係どうしに定量的な関係が存在するということを示したが、2021年度はこの定量的な関係がエントロピーを用いた定量化においても成り立つことを示した。この結果は、Journal of Physics A: Mathematical and Theoretical 54 (31),315302にて出版されている。 後者の量子論の枠内での同時操作不可能性に関する研究は、同時操作不可能性の検証にも関わるものである。同時操作不可能性の定義は、複数の操作が、あらゆる入力状態については同時に実行ではないというものだが、実際の検証において可能な無限個の入力状態を用いることは不可能である。そこで、同時操作不可能性の検証に最低限いくつの状態が必要か、またいくつの状態があれば必ず検証可能かという量は非常に興味深い。我々は、Physical Review A 104 (3), 032228において発表した論文において、前者をincompatibility dimension、後者をcompatibility dimensionと名付けそれらの性質を調べた。まず、これらの量の満たすべき不等式をincompatibility witnessの議論を援用し求めるとともに、量子ビット系における簡単な物理量の組(ノイズの入ったXおよびZ)について、incompatibility dimensionがどのような値をとるかを求めた。その結果、ノイズの大きさにより、この値が変わることが示されたが、このような振る舞いは他の定量化には見られないものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究成果は順調にあげられている。特に、研究室の博士課程学生の高倉龍氏との共同研究はかなり順調に進んだ。ただし、コロナ禍により出張が不可能となり、海外の共同研究者との密な連絡ができなかったため、新たなネットワークの構築ができていないのは残念である。
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今後の研究の推進方策 |
まず一般確率論を用いた研究において新たな広がりを期待している。具体的には高倉龍氏との共同研究により、量子論におけるno programming定理を一般確率論において展開・一般化することを考えている。更に、2021年度に研究を行ったincompatibility dimensionについては一般確率論への定義の一般化は容易であると考えている。しかるべき一般化ののち、正多角形モデルなどを用いて具体例を計算し、この量の性質を調べたい。 また、保存量のある系における量子測定は、同時操作不可能性の理論が活躍する一つの場だが、このトピックに関してもチャネルに関する不動点集合に関する知見を用いた研究を、Leon Loveridge氏とHamed Mohammedi氏との共同研究により進める予定である。 他の話題としては、SU(2)共変性をもつ量子チャネルについて調べ、その同時操作不可能性との関係についても研究を行う予定である。 コロナ禍が緩和した場合には、海外から共同研究者の招聘(Teiko Heinosaari氏)や、海外出張などを行うことで、研究をよりいっそう推進していきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により、予定していた海外出張および海外からの研究者招へいが全くできなかったため次年度使用額が生じている。2022年度は海外出張と研究者招へいを行いたい。また、国内におけるネットワークの形成のため、国内出張を多く行うことを計画をしている。
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