ジャーナル論文が1本採録された。MQ-signと呼ばれる多変数署名方式に対する攻撃論文であった。UOVという多変数署名方式の亜種であり、秘密鍵の一部を疎にすることで効率化を図った方式であったが、疎にしたことにより脆弱性が生まれ、UOVよりも安全性が下がることを指摘した。UOVはいまだに安全であるが、MQ-signの一部は現実的には使用が難しいことが分かった。 実数体上の多変数多項式方程式は、最適化理論の手法を用いて解析的に解を求める方法がある。一方で多変数多項式公開鍵暗号では、有限体上の多変数多項式方程式の求解の計算量が暗号の安全性に直結する。実数体と有限体では構造がまるで違うが、特殊な場合ならば最適化理論の手法が多変数多項式公開鍵暗号に応用できるのではないかと考え、そのアイデアも具体的に持っていたのだが、手順が複雑であり、実装を始めたが終えることができなかった。理論的な計算量の見積もりも難しく、論文化も出来なかった。 有限体上の疎な多変数多項式系の正則性次数に関する評価予想を立てた。正則性次数はグレブナー基底計算の計算量を見積もるために必要である。疎な多変数多項式系は一般の多変数多項式系に比べて正則性次数が低くなるが、暗号の安全性を見積もるうえでは正確に値が求まることが重要となる。予想は立てたが、実験が捗らず論文化できていない。本来、疎な多変数多項式系を多変数多項式暗号方式に利用し、鍵長を削減しつつ、安全性も正確に評価することが目標であったが、そこまで至らなかった。
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