研究課題/領域番号 |
20K03757
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
池田 幸太 明治大学, 総合数理学部, 専任准教授 (50553369)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 応用数学一般 / 中心多様体縮約理論 / 時間遅れ微分方程式 |
研究実績の概要 |
研究課題1ではパルス型進行波解の集団運動に対する中心多様体縮約理論の確立を目標としている。研究課題で掲げた目標を達成するために、2020年度の研究では先行研究における基底空間の見直しを行った。以前に行った研究では、樟脳船の集団運動に関するモデル方程式を扱ったが、デルタ関数が自然に現れる系であるため基底空間としてH1の双対空間を使用するのが自然であった。しかしながら、方程式の特殊性により、方程式に含まれるデルタ関数の一部を消去することが可能であることが判明した。この事実を用いると、L2空間を基底空間として取れることが分かった。この事実を用いて、デルタ関数を含む系における中心多様体縮約理論をL2空間で構成することを2020年度の目標とした。部分的な消去が可能となったものの、一部に残ったデルタ関数の処置を丁寧に行ったり、解析の鍵となる射影作用素の正則性と評価を行ったり、数学的に新たな解析が必要であった。2020年度に得られた結果は数学的にも新しいと言える。現在この結果に関する論文を作成中である。 研究課題2については、FP方程式から形式的に得られた縮約方程式の解析を行った。パルスの位置を表す関数が満たす時間遅れ項付き微分方程式における時間周期解の存在を保証することが当初の目標である。ここで、既存の理論 (K.P.Hadeler, J.Tomiuk, Arch. Ration. Mech. Anal., 1977) を参考にし、実際に時間周期解が存在することを保証できた。ここで得られた解と、FP方程式に現れるパルス型の時間周期解と比較し、適切に近似できていることを確認した。もちろんこれはパラメータの選び方に依存するため、どのような意味で近似可能か数学的に調べることは大切であり、今後の研究課題である。以上の結果は既に論文にまとめ、現在投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究課題1に関して2020年度に得られた結果は、パルス幅の時間変化を考慮した中心多様体理論の確立と適用という目標に対して大きく資するものと考えている。FHN方程式等の反応拡散方程式系に現れるパルス解は、拡散係数などのパラメータに対して適当な極限を取ることで不連続点を有する解に収束する。そのため、対象となる方程式には自然とデルタ関数が現れる。デルタ関数を扱うことの出来る中心多様体縮約理論は、本研究を推進する上での土台となり、2020年度に得られた結果は大きいと考えている。一方で、2020年度の研究計画は、当初のものから大きく予定変更せざるを得なかった。本研究を推進する上では海外の研究協力者からの理論の提供が必須であった。海外出張が制限されている現状のためこの計画変更はやむを得ないが、これまでに得られた結果をまとめた論文を作成するなど、現在できる範囲で研究推進を続けている。 研究課題2については、当初計画した研究目標の1つがひとまず完了したと言える。既存の理論 (K.P.Hadeler, J.Tomiuk, Arch. Ration. Mech. Anal., 1977) を参考にすることで、FP方程式から形式的に得られた、時間遅れ項付き微分方程式における時間周期解の存在を保証することができた。以上の結果は既に論文にまとめ、現在投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
研究課題1に関して2020年度に得られた結果であるが、汎用性が高いと考えている。適当なパラメータの極限を取ることで、反応拡散方程式系には自然と不連続点を有する解が現れる。例えばFHN方程式がその例であるが、この方程式には樟脳船に対するモデル方程式と同様の数理構造が存在するため、2020年度で用いた手法と同じやり方でデルタ関数を消去できることが分かる。したがって、2020年度に得られた理論的枠組みをFHN方程式に適用して良いことになる。また、その他にも適用可能なモデル方程式がいくつか存在することを確認できている。そこで2021年度は、FHN方程式等のモデル方程式に対して新しい中心多様体縮約理論を適用する。この結果を通じて、得られた理論的枠組みの汎用性を調べたい。これは当初の研究計画に含まれていないものであるが、2020年度の研究結果から新たに得られた知見であり、自然な発想であろう。一方で、現在の情勢が落ち着き次第、当初計画していた海外の研究協力者との研究を推進する予定である。 研究課題2については当初計画した研究目標を達成したのだが、解析を推し進める過程において、新たな知見が得られた。FP方程式から縮約して得られた時間遅れ項付き微分方程式において、適当なパラメータに対して極限を取ることで、時間周期解のより詳細な特徴づけが期待できることが分かった。しかしながら、パラメータの極限を取って得られる解には不連続点が発生したり、その導関数の値が発散したりするなど、いわゆる特異摂動法の適用範囲になってしまう。時間遅れ問題における特異摂動法の適用例は少ないため、新たな解析が必要となった。2021年度は解の特徴づけをより詳細に行うため、特異摂動法の適用を目標とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度には海外・国内での出張を予定していた。しかしながら、新型コロナウィルス蔓延に伴い、移動制限が発せられ、出張が全くできなかった。一方で、出張の可否決定が判明したのが年度末になってからだったため、ぎりぎりまで研究費の使用計画を立てることができなかった。また、突然出張可能になった場合を想定して研究費の使用を控えていた。以上の理由から、2020年度実績が全く無い状態になってしまった。 2021年度中には状況が好転する可能性がある。この場合、2020年度に予定していた出張を実施する予定である。また、そもそも2021年度は長期滞在型の海外出張を予定していたため、2020年度分ともあわせて実施する予定である。
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