研究課題/領域番号 |
20K03764
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
永尾 太郎 名古屋大学, 多元数理科学研究科, 教授 (10263196)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ランダム行列 / 普遍性 / 2次元流体 |
研究実績の概要 |
ランダム行列は物理学の様々な問題に応用されてきたが, その基礎となるのは固有値や固有ベクトルの分布の普遍性である. ランダム行列の固有値分布は, 分子間相互作用のある流体の統計力学的分布の例を与えることがある. 標準的な非エルミートランダム行列の固有値は, 複素平面上に分布するため, 対応する流体は2次元平面上にあり, 厳密に物理量を計算できる2次元流体の例を与える. 最近のランダム行列理論の発展により, これらの2次元流体をさらに広いクラスに拡張することが可能であるという認識が深まってきた. 本研究では, ランダム行列の普遍性の理解を深めるとともに, 2次元流体の統計力学を進展させたい. 標準的な非エルミートランダム行列に対応する2次元流体においては, 固有値(すなわち流体分子の位置)の相関関数は, 行列式またはパフィアンの形に表され, 行列式(またはパフィアン)の行列要素は, 直交多項式(または歪直交多項式)によって表される. ただし, この場合の直交多項式は, 実軸上の1次元領域における積分に対してではなく, 複素平面上の2次元領域における2重積分に対して直交する. 古典直交多項式としてよく知られている Gegenbauer 多項式は実軸上で直交するが, より一般的に, 複素平面上の楕円面領域においても直交する. 今年度専門誌に掲載された論文では, Gegenbauer 多項式の楕円面領域における直交性の証明を発表した. この直交性を用いることにより, 楕円面上の2次元 Coulomb 気体を解析することができ, 様々な極限において, ランダム行列モデルの固有値分布に関する普遍的な結果を再現することができる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では, まず, ガウス型の非エルミートランダム行列モデルを一般化した「古典直交多項式に関係するランダム行列アンサンブル」を構成して解析することを目標とする. そのためには, 古典直交多項式の複素平面上での直交性を示し, 対応するランダム行列アンサンブル(あるいは2次元流体)を導出することが求められる. 標準的なエルミートランダム行列モデルに対応する1次元流体においては, 固有値(すなわち流体分子の位置)の相関関数が, 行列式またはパフィアンの形に表される. そして, 行列式(またはパフィアン)の行列要素は, 固有値密度に対応する直交多項式(または歪直交多項式)によって表される. ガウス型のエルミートランダム行列モデルにおいては, 直交多項式として Hermite 多項式を用いることができる. 歪直交多項式についても, Hermite 多項式による展開式を使った解析が可能である. さらに, ガウス型のエルミートランダム行列モデルを一般化して, 「古典直交多項式に関係するランダム行列アンサンブル」を構成できる. 一方, 標準的な非エルミートランダム行列に対応する2次元流体においては, 固有値(すなわち流体分子の位置)は複素平面上にあり, それらの相関関数を表すためには, 複素平面上で直交する直交多項式が必要になる. Hermite 多項式は複素平面上でも直交することが知られているので, ガウス型の非エルミートランダム行列の解析に用いられる. 今年度専門誌に掲載された論文においては, より一般的な古典直交多項式である Gegenbauer 多項式の複素平面上での直交性が証明できた. これは, 非エルミートランダム行列モデルにおいても, エルミートランダム行列モデルの場合と同様に, 「古典直交多項式に関係するランダム行列アンサンブル」への一般化が可能であることを示唆する結果である.
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今後の研究の推進方策 |
本研究では, 古典直交多項式の複素平面上での直交性を示し, 対応する非エルミートランダム行列アンサンブル(あるいは2次元流体)を構成して解析することを計画している. これまで Gegenbauer 多項式に関係する楕円面上の2次元流体の解析に成功しているので, より一般的な古典直交多項式に関係するモデルの研究を進めたい. また, 2次元離散測度上で直交する多項式の構成と, 対応する2次元系の解析も行いたいと考えている. 研究代表者自身, Hermite 多項式を離散化した Hahn 多項式や Laguerre 多項式を離散化した Meixner 多項式などに対応する1次元離散モデルを調べた実績があるので, その経験を生かして, 2次元離散モデルについての理解を深めたい. さらに, 近年発展してきた複雑ネットワークの理論において, 人間関係, インターネット, 生体内の化学反応のネットワークなど, 現実的なネットワークのもつ普遍的な構造が明らかにされていることに着目する. 特に目立つ構造として挙げられるのは, スケールフリー性である. ネットワークの結節点に直接に結合している結節点の数(次数)の分布がべき分布になることをスケールフリー性と呼ぶ. スケールフリー性をもつ隣接行列は, ランダム疎行列を一般化したスケールフリーランダム行列を構成することによって実現される. そして, 場の理論的な方法によるスケールフリーランダム行列の解析により, 数値計算の結果を再現することができる. 本研究においては, これらの既存研究の成果を踏まえて, 結節点を結ぶ辺が向きをもつ有向ネットワークの研究を行う予定である. この場合, 対応する隣接行列は実非対称行列になるため, 非エルミートランダム行列の普遍性についての知見が役に立つことが期待される.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は, 感染症の問題のため, 予定していた出張が実施できず旅費の使用がなかった. 次年度は, 出張によらずにオンラインで情報収集する目的での使用を検討するとともに, 状況が許すならば, 国内出張を実施したい. また, 数式処理や数値シミュレーションの実施を目的として, 計算機環境を整備するための使用も考えている.
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