研究実績の概要 |
本研究課題では,2準位原子と1モード光の相互作用を記述する量子ラビ模型に対し,回路量子電磁力学で実現する深強結合領域での原子・光子間の相互作用を考慮し,2次の相互作用を導入した模型を扱っている。本研究課題を構想するための前段階で,量子ラビ模型でN=2超対称性(SUSY)とその自発的破れが相転移として得られることを理論予想していたが([H15] M. Hirokawa, Quantum Stud.: Math. Found. 2: 379-388, 2015),今年度に入り,清華大のイオントラップの実験チームがこれを観測したと報告して来た(M.-L. Cai, et al., Nature Comm. 13: 3412 (2022))。この理論予想[H15]では,SUSY量子力学におけるエネルギースペクトルと超電荷の超代数構造を明らかにし,観測の可能性の予想をたてていたが,そのイオントラップのチームは両方を観測する手法を提案している。ただし,彼らの実験設定では,光子の代わりにフォノンがbosonとして使われている。超電荷は仮想粒子が構成すると思われるが,これが実験にかかるということは,何らかの意味で仮想粒子から実粒子への転化が起きていると思われる。そこで,今年度の研究の方向性を彼らの実験に合わせ,回路量子電磁力学において[H15]の量子ラビ模型に2次の相互作用を導入した場合に,強結合極限ではSUSYからその自発的破れの相転移が起こらない事(no-go定理),別の極限ではこの相転移が起こる事を証明した。従って,後者において,超電荷を観測すれば2次の相互作用の影響を観測できる可能性,さらに,2次の相互作用が仮想粒子としてのbosonの質量項として働き,bosonic状態での質量増幅のみならずfermionic状態でも同じ質量増幅がエネルギースペクトルに観測できる可能性がある事を証明した。
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