研究課題/領域番号 |
20K03769
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
中村 正明 愛媛大学, 理工学研究科(理学系), 准教授 (50339107)
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研究分担者 |
松枝 宏明 東北大学, 工学研究科, 教授 (20396518)
古谷 峻介 茨城大学, 理工学研究科(理学野), 研究員 (90781998)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | トポロジカル絶縁体 / 偏極演算子 / 非エルミート系 / 表皮効果 / ベリー位相 / トポロジカル超伝導体 / 密度行列繰り込み群 |
研究実績の概要 |
トポロジカルな物理現象に関する研究は理論、実験の双方で盛んに行われており、さらに既存の物理現象に関してもトポロジカルな観点からの再検討が広く行われ、新たな展開が起きている。Lieb-Schultz-Mattis(LSM)の定理は1次元量子系の低エネルギー励起の有無を判定するための古くから知られた理論であるが、これは系のトポロジーを特定する偏極演算子をはじめとする他の理論体系と有機的なつながりを持っている。そこで、本研究では、LSM定理と偏極演算子を高次元系や非エルミート系など新奇なトポロジカル状態を特徴づける新たな枠組みへの応用を試み、さらに、情報論理論と幾何学に関するアプローチを組み合わせることで、トポロジカルな物理現象の探究を多角的・包括的に進めていくことを目的とする。
Restaによって提唱された1次元周期系における電子偏極の重心座標を表す演算子はLSM定理において励起状態を生成する演算子と同一のものである。2次元トポロジカル絶縁体を記述する基本模型である2次元Wilson-Dirac模型を、2次元格子系を1次元的に網羅するらせん型境界条件で扱うことで、偏極演算子がトポロジカル相と自明な絶縁相の特徴づけと、それらの相間の相転移の検出に応用できることを見出した。
また、偏極演算子を非エルミート系への応用も行った。非エルミート型Su-Schrieffer-Heeger(SSH)模型を周期境界条件で扱い、双直交基底における偏極演算子の期待値が巻き付き数と対応付けることができ、トポロジカル相転移において、転移点ではなく、有限な大きさの転移領域が現れ、そこで偏極がゼロとなることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
らせん型境界条件と偏極演算子を用いた2次元Wilson-Dirac模型のトポロジカル相転移にし関する研究は順調に進展し、Physical Review Bに出版することができた。また、この研究をさらに発展させて、電子相関がある場合の系のChern数を計算する手法に関する研究に現在取り組んでいる。さらに、非エルミート系に対する偏極演算子を用いたトポロジカル相転移に関する研究も周期境界条件の場合については研究が進展し、JPSJに出版することができた。さらにその発展形として、開いた境界条件における非エルミート表皮効果に関する研究も進展しており、現在論文の投稿準備中である。またらせん型境界条件を用いた密度行列繰り込み群に関する研究も共同研究が進展しており、こちらも投稿準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では1次元量子系に適用されてきた、LSM定理、偏極演算子、ベリー位相、レベルスペクトロスコピーといった概念をそれらの間に相互に成り立つ関係を踏まえることで、非エルミート系や高次元などの諸問題に包括的に拡張を試みることを目的としている。らせん型境界条件を用いた2次元Wilson-Dirac模型における偏極演算子の解析が成功したため、この手法をChern数の計算に応用し、相互作用のある場合のChern数の計算法に一般化することで、密度行列繰り込み群の計算手法と組み合わせて、強相関系のトポロジカル相の解析に応用したいと考えている。また非エルミート系については、周期境界条件の場合についての偏極演算子の適用に成功したので、開いた境界条件における非エルミート表皮効果への応用について現在研究を進めており、その2次元への拡張も試みている。また、エンタングルメントスペクトルの計算も行う予定である。さらにトポロジカル超伝導体への偏極演算子の応用に関しても研究を進めている。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により、旅費使用が当初の予想よりも少なくなったため。
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