研究課題/領域番号 |
20K03771
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
鈴木 岳人 青山学院大学, 理工学部, 助教 (10451874)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 多孔質媒質 / 空隙率 / 流体圧 / 一次相転移 |
研究実績の概要 |
流体の存在を介した多孔質媒質の滑り運動に関して、本年度は空隙率の回復を支配方程式に取り入れられたことが大きい。これにより自己沈殿を表現できるようになった。そしてそれを応用するため、熱・流体・空隙率相互作用とバネ・ブロックモデルの導入を行った。バネ・ブロックモデルの滑り面に、それら3変数の相互作用を組み込んだのである。これにより、多孔質媒質の運動の中で特に滑りと停止の繰り返し(スティック・スリップ運動)に焦点を当てた。
特に重要な成果として、相転移の発見というものが挙げられる。本モデルにおいては、滑り運動の中に、滑り速度が一桁以上異なる2通りの振る舞いが見られる。これらは地震観測から知られているゆっくり地震・高速地震に対応する考えて良い。そしてゆっくり地震を何度か繰り返した後、高速地震へと遷移する振る舞いが見られた。その遷移が起こる条件を、ブロックに関するエネルギー保存則から解析的に導出することに成功したのである。それを支配する関数Fは一回の滑り量u_fの関数であり、F(u_f)=0となるu_fが実際の一回の滑りで観測されることになる。Fはdouble-well型で、最初のwellが非常に浅いものである。2つのwellの間に解を持つときと持たないときで、2桁ほど異なるu_fが得られた。この振る舞いは一次相転移の振る舞いそのものである。加えて重要なのが、2つのwell間に解を持つか否かは滑り開始時の流体圧と空隙率が支配しているということである。ゆっくり地震の繰り返しから高速地震発生への遷移は、流体圧と空隙によって支配された一次相転移ととらえられることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでは取り入れられていなかった、自己沈殿を表す項を支配方程式に導入できたからである。加えてゆっくり地震の繰り返しから高速地震への遷移という振る舞いが一次相転移として理解されるという、予測を超える結果が得られたことも大きい。
本年度では流体圧の変化は発熱と空隙生成によって誘発され、流れによる変化は解析的には取り入れられなかった。これを解析的・数値的に取り入れられれば多孔質媒質の滑り運動の理解に関して最終目的に達するが、そこに至る準備は本年度で十分にできたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
概ね順調であるので、特に大きな変更は必要ないと考えている。引き続き解析的・数値的取り扱いを組み合わせて多孔質媒質の滑り運動の詳細を明らかにしていく。特に流体の流れを考え、より詳細な滑り運動の理解を目指す。地震サイクルの言葉で言えば、流れを取り入れることにより、例えば遷移の直前のゆっくり地震の滑り量などについて考察を加えたい。
しいて言えばであるが、国内・海外出張がままならない状況であることが気がかりである。ここまででもまとまった成果が出ているので積極的に発表したいが、なかなかオンラインだけではうまく広められている実感がないのも事実である。それでも少しずつオンサイト発表が出てきているので、そこをうまく活用したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
やはり国内・海外出張がほぼなくなってしまった点が大きい。
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