研究課題/領域番号 |
20K03777
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
野々村 禎彦 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, 主幹研究員 (30280936)
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研究分担者 |
富田 裕介 芝浦工業大学, 工学部, 教授 (50361663)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 温度スケーリング / 非平衡緩和法 / クラスターアルゴリズム / 量子相転移 |
研究実績の概要 |
モンテカルロ計算の非平衡初期緩和から臨界現象を推定する非平衡緩和法は広く用いられてきたが、従来の定式化は局所更新アルゴリズムの冪的な臨界緩和を前提にしていた。しかし我々は、より緩和の速いクラスター更新アルゴリズムを用いると臨界緩和は引き伸ばされた指数関数型のシミュレーション時間依存性を示すことを見出し、非平衡―平衡スケーリングに基づいた新たな定式化を提唱した。この定式化を非臨界領域に拡張したのが「温度スケーリング」であり、両者を組み合わせると臨界現象の解析がさらに効率的に行える。当該年度は以下の成果を得た。
(1) 3次元古典ハイゼンベルクモデルに温度スケーリングを適用し、帯磁率の臨界指数を高い精度で推定した。この推定値と非平衡―平衡スケーリングを組み合わせて得られる相関長の臨界指数の精度は、非平衡―平衡スケーリングの枠内で得られた(磁化の温度微分を用いた)臨界指数の精度と同程度だが、この精度は非平衡―平衡スケーリングに由来している。以上の結果を論文として出版した。 (2) 温度スケーリングを量子スピン系の量子相転移に拡張した。具体的には、3次元古典ハイゼンベルクモデルと同じ普遍性クラスに属する、正方格子上でダイマー化した2次元S=1/2反強磁性ハイゼンベルクモデルのネール/ダイマー量子相転移のスタガード帯磁率の臨界指数を評価した。この推定値と非平衡―平衡スケーリングを組み合わせると従来の計算手法とは対照的に、相関長の臨界指数を非対角成分を含まない物理量の測定のみで評価できる。またこの過程で、非平衡―平衡スケーリングで見られた初期緩和過程や一部の物理量のスケーリングの悪さの原因が判明し、より正確な数値計算が可能になった。以上の結果をまとめた論文を準備している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の主な目標は非平衡―平衡スケーリングで臨界現象を調べた系を温度スケーリングでも調べ、両者を組み合わせた解析手法の有効性を示すことだったが、3次元古典ハイゼンベルクモデルに関しては論文を出版し、正方格子上でダイマー化した2次元S=1/2反強磁性ハイゼンベルクモデルのネール/ダイマー量子相転移に関しても学会で成果を報告し、論文執筆を進めている。すなわち主目標は達成されており、順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 温度スケーリングを量子スピン系の量子相転移に拡張し、正方格子上でダイマー化した2次元S=1/2反強磁性ハイゼンベルクモデルのネール/ダイマー量子相転移を評価した成果を論文にまとめる。 (2) この手法を未解決問題にも応用する。具体例としては、上記モデルをサイト希釈した系の量子相転移を、非平衡―平衡スケーリングと温度スケーリングを組み合わせて解析する。 (3) 非平衡―平衡スケーリングと温度スケーリングの理論的導出を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
競争見積の結果、クラスター計算機を調書の計画よりも廉価で購入できたことと、新型コロナウィルス感染が収束せず、国内研究集会もすべてオンライン開催となり、旅費を支出しなかったことが主な理由である。新型コロナウィルス感染状況を注視しつつ(状況によっては今年度も旅費は支出できないかもしれない)、計算サーバーを追加購入して有効に使用する。
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