モンテカルロ計算の非平衡初期緩和から臨界現象を推定する非平衡緩和法は広く用いられてきたが、従来の定式化は局所更新アルゴリズムの冪的な臨界緩和を前提にしていた。しかし我々は、より緩和の速いクラスター更新アルゴリズムを用いると臨界緩和は引き伸ばされた指数関数型のシミュレーション時間依存性を示すことを見出し、非平衡―平衡スケーリングに基づいた新たな定式化を提唱した。この定式化を非臨界領域に拡張したのが「温度スケーリング」であり、両者を 組み合わせると臨界現象の解析がさらに効率的に行える。
初年度に古典スピン系における成果を論文として発表し、量子系への拡張にも成功したが、2年目は個人的事情が重なって研究は停滞した。ただし量子系の計算アルゴリズムの改良に着手し、最終年度前半にコーディングを終えて初年度のアルゴリズムよりも計算速度が一桁(10倍程度)速くなった。最終年度後半はこのアルゴリズムを用いて量子希釈系の量子相転移の研究を始めた。2次元S=1/2反強磁性ハイゼンベルクモデルをサイト希釈した系はサイトパーコレーション濃度で量子相転移を示すことが知られているが、その詳細には依然議論がある。非平衡緩和法の枠組で解析を行う際には初期状態の取り方が問題になるが、我々は非希釈系の基底状態が良い初期状態になることを見出した。この系の量子相転移点における非平衡緩和は log t(t:モンテカルロ計算時間)に比例する非常に遅いものになり、非希釈系の平衡化に要する計算時間は無視できる。ただしこの量子相転移点で基底状態と見做せるシミュレーション温度は非常に低くなり、まだ十分なデータは得られていない。サンプル平均に加えて1サンプルの計算領域も並列化したコードを開発してこの問題を解決する課題は、次年度から始まる研究課題「量子系・非臨界領域に拡張されたクラスター非平衡緩和法のランダム系への応用」に持ち越された。
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