研究課題/領域番号 |
20K03778
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
桃井 勉 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 専任研究員 (80292499)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | スピンネマティック相 / 量子相 / 隠れた秩序相 / 熱容量 / 核磁気緩和率 |
研究実績の概要 |
磁性体の低温において、スピン相互作用の競合と量子効果により出現する磁性秩序が消失した量子状態の一例として、スピンは磁性秩序を持たないもののスピン空間の回転対称性を部分的に破れた液晶状態(スピンネマティック状態)の出現が理論的に提唱され、その実験的検証が待たれている。今回、スピンネマティック相の出現が理論的に予言されている候補物質であるクロムスピネル酸化物HgCr2Oと2次元ダイマー系SrCu2(BO3)4において、磁場中の比熱及び磁気熱量効果測定を実験グループの協力のもと行った。磁場中における熱力学量測定の結果、これまで知られていた磁性相以外に、スピンギャップ相の隣に新しい低温相が存在することを確認した。これらの磁場領域は、いずれも、マグノン励起対あるいはトリプロン対が凝縮することによりスピンネマティック状態が出現すると理論的に予言されている領域である。2次元ダイマー系SrCu2(BO3)4の比熱測定から、この相において巨視的な数のトリプロン対が低温において現れることが確認された。 また、実験結果を理解するために、マグノン励起とマグノン対励起の両方を記述する2成分ボゾン模型を用いて、スピンネマティック相とその近傍における熱力学量(比熱と核磁気緩和率)の温度依存性を求めた。そのふるまいは、実験データを説明する。これまでの理論計算による予言と今回得られた結果に基づいて、これら2つの物質で観測された磁気的には隠れた新しい相が、スピンネマティック相であると結論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
全体的には研究は計画していた方向に進展している。2成分ボゾン系の研究はほぼ終わっており、これから論文にまとめる。また、一昨年度より行っている非摂動的有効模型の導出法の研究は、数値計算を行う部分が予想より計算が煩雑であることが分かり時間と労力をとられた。しかし、おおむね乗り越えつつあり、予定していた計算結果が間もなく得られることが予想される。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの2成分ボゾン系の成果を論文にまとめ出版し、さらに国内外の会議で発表する。 非摂動的有効模型の導出については、現在進行中の数値計算をさらに進め、方法についての論文を今年度中に出版する。引き続きこの手法を用いて、様々な格子模型における励起構造の非摂動的評価を行っていき、フラストレート磁性体における新規な量子相の出現を探る。国内・海外出張を行い、共同研究および会議における研究成果発表を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナの流行により、海外へ渡航が困難になり、現地で開催させる国際会議や海外共同研究者のもとへの渡航が出来なかった。
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