研究課題/領域番号 |
20K03783
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
新山 友暁 金沢大学, 機械工学系, 准教授 (00583858)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 自己組織化臨界 / 塑性変形 / 分子動力学シミュレーション |
研究実績の概要 |
結晶のような規則的な原子配置構造をとる固体と,ガラスのような不規則な構造をとる固体における塑性挙動を,ひとつの原子モデル(原子間の引力・斥力を規定する相互作用ポテンシャル)で表現するための検討を行なった。この結果,規則構造から不規則構造までの多様な固体構造を作ることに成功した。さらに,それらを変形させる原子シミュレーションを実行することで,転位・局所原子組み換えおよびき裂進展といった異なる変形素過程による塑性変形現象の再現に成功した。また,変形規模を表現するのに適切な物理量の選定を行なった。ここで,塑性変形イベントを抽出するために,物理量の時系列データから熱ノイズを除去する必要があり,ローパスフィルターの適用を試みた。このときのフィルタリング周波数の決定方法を開発することによって,物理量から観測の範囲内で塑性イベントを適切に抽出する手法を確立することができた。 変形シミュレーション結果に上述の手法を適用することで塑性イベントを抽出した。その際の応力の低下量をイベントの規模として規模別統計分布を計算することで,各固体構造と統計的性質の関係を先行的に調査した。この結果,上記統計分布はいずれも代数的な減衰を伴うベキ分布にしたがっており,その特徴指数および最大規模には固体構造および変形モード(塑性変形・破壊)による差異がみられたが,規則構造と不規則構造間での違いは顕著ではなかった。また,フィルタリング周波数の決定方法をわずかに変えることで,特徴指数決定が機能しなくなることも明らかになった。この結果からは普遍性の強さが暗示されるが,熱ノイズの影響を完全に取り除いて解析するなどのより詳細な解析が必要であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
規則・不規則系の粒子モデルを Morse 型ポテンシャルのパラメーター調節によって作し,その塑性変形の非平衡臨界挙動を分子動力学シミュレーションで再現した。各構造における剛性率を完全に同一にすることはできなかったが,えられた剛性率で正規化することで適正な比較ができることが確認できた。動的変数としては非アフィン自乗変位が有望な候補と考えられる。この動的変数を計算するにはイベント発生および終了時刻を決定する必要があるが,このためには応力などの時系列からイベント発生を抽出する必要があった。このためには熱ノイズの除去が必要であるため,本年度は特徴時間スケールの特定に注力し,時系列からの熱ノイズを除去するためのカットオフ周波数を決定する手法を確立した。 変形条件については単軸引張条件を調査したが,システムサイズによる影響が大きく,より大きなサイズに対する必要なひずみ速度が予想よりも小さくなる可能性が予見された。このため,サイズ依存性の調査に関しては方針を再検討し修正する可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き計画に従って研究を推進する。 塑性イベントの規模として選択する物理量として,応力降下量だけでなく原子変位についても対象として計算していく。 また,本年度の時点で系統的なデータが得られつつあるため,予備的に行っていた統計分布計算の精緻化を検討する。とくに,塑性イベント抽出において熱ノイズの影響を完全に除去する手法の適用を試みる。この計算はかなりのコストを要すると予想されるが,現在の抽出方法の妥当性を検証することができる。また,現行法でえられる特徴指数との相関を得ることができるならば,現行法で各構造での特徴指数を評価し,同一サイズ内での比較が可能となるため,いくつかのケースで試行する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの流行のため当初計上していた旅費を使用しなかった。これに対して,他の雑費を合わせてほぼ全額を当初計上していた計算サーバーの購入に当てたため残額が残ったが,少額であるため次年度に繰り越すこととした。少額であるため次年度の各費目の使用に充当する。
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