研究課題/領域番号 |
20K03785
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
礒部 雅晴 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80359760)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 動的ファシリテーション / 構造ガラス / 遅い緩和 / 非平衡相転移 / 分子動力学法 |
研究実績の概要 |
「ガラス・ジャミング転移」それらの類似性に着目した「遅い緩和」の神秘な物性について記述する統一的(普遍的)枠組みに関する研究が精力的に行われている.しかし,未だ,決定的な概念や理論が存在せず多くの理論や方法論が創生され,世界中の研究者を魅了し続けている.代表者は,剛体球系の高速Event-Driven分子動力学法(EDMD:1999)とEvent-Chainモンテカルロ法(ECMC:2009)を融合させた「Event-Based Hybrid高速アルゴリズム」(2016)を用い,局所構造解析をする方法論を開発し,熱力学を基礎とした理論とは異なる「動的ファシリテーション」理論に着目し研究を進めている.国際研究協力体制にて,構造ガラス系の遅い緩和の「微視的起源」と「非平衡相転移」の解明をめざしている.
令和3年度は研究計画の2年目であり,昨年の成果を基礎に研究を発展させた. (I)「分子の局所構造解析」:高密度多成分剛体円板系の厳密な自由体積計算(NELF-A)法を適用範囲が広く単純かつ高効率の方法へ改良した. (II)「平衡緩和」:昨年度のEDMDの成果を基に,ECMC法やNewtonian ECMC法について,緩和過程や拡散特性の効率性の違いに着目し,微視的機構を系統的に調べた.イベント鎖長や系のサイズを系統的に変えた結果、周期境界条件起因のサンプル不均一性が効率に影響を与えることが判明した. (III)「構造ガラス系のファシリテーション」:日中(香港)国際共同研究を遂行し,ガラス転移点近傍の準空隙駆動「ひも状のホッピング連鎖」協働運動の待ち時間分布のべき乗則理論を検証した.また,排除体積効果と非平衡流の協働現象を調べるため高密度剛体円板の自己駆動粒子(Vicsek)系の相図を作成し,相転移点のシフトと微視的機構を調べた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,「遅い緩和」の微視的機構の解明のため,局所構造解析の方法論開発ならびに,「フリージング」「フリーエネルギー」「ファシリテーション」の3つの概念を軸に研究を遂行している.令和3年度は,以下のような研究進捗があった. (a)方法論の開発として,昨年開発したNELF-A法を改良した.注目する粒子の近接候補粒子群の排除体積円の交点のみに着目し,自由体積を構成する粒子を効率よく選択する最適条件を見出した.その結果,密度の適用範囲が広く,単純で効率のよい厳密な自由体積計算法の開発に成功した.さらに,求めた各粒子の自由体積領域の重心を求める方法も開発し,異方性(フリーエネルギー)と高密ガラス系のHopping連鎖運動の方向の相関関係について系統的に調べた. (b) 様々なイベント駆動型アルゴリズムの「平衡緩和」の原理解明を目的とし,Alder転移点近傍における融解過程や拡散特性に着目し,効率性や微視的機構の違いを大規模精密計算により調べた.ECMC法系列ではイベント鎖長が効率や緩和に強く依存し,サンプリングの空間不均一性が効率に大きな影響を与えることが判明した. (c) 準空隙駆動「ひも状ホッピング連鎖」協働運動(PRL2020)を基礎に,香港理工大学の共同研究にてホッピング待ち時間の確率密度分布べき則理論を提唱,等配置アンサンブルを用いた2 成分剛体円板系シミュレーションで検証した.連続するホップ素過程相関を計算する方法論を導入した結果、高密度で待ち時間が増大し再帰運動が支配的となった. 2年目は,国際会議Powders&Grains 2021, CCP 2021のProceedings 3,国内会議5にて成果発表し,初年度に引き続き十分な成果が得られた.最終年度も研究成果の公表が期待でき,おおむね当初の計画通りに研究が進展している.
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は,本プロジェクトの3年目(最終年度)となる.ガラス・ジャミング転移を含めた高密度分子系の動的ファシリテーション機構の統一的理解への全容解明をめざす.また,国際共同体制にて得られた成果をまとめ公表する。各研究の推進方策をまとめる.
(1) 高密度分子系の局所構造解析の方法論を確立し,国際会議や原著論文にて公表する.(2) 種々のイベント駆動型アルゴリズムを用いて得られた剛体円板系における平衡緩和の比較や微視的機構の基本原理を解明する.また,分子(素子)を円板から多角粒子(ポリゴン)系へ拡張するため,近年開発された多面体系の高速接触判定法「XenoSweep」を導入し,回転イベント鎖ならびに多角粒子での自由体積計算法を確立する.緩和機構をフリーエネルギーの観点から包括的に研究をまとめる.さらに,温めると早く凍るというムペンバ効果との関連性を調べる.これらの得られた成果は原著論文にまとめ,国内外の学会で発表を行う. (3) 動的ファシリテーション理論は大きな「パラドックス」がある.すなわち,高密度系で大変位を起こす隙間がなく,Hopping連鎖の最初のトリガーと起源が不明である.先行研究では,静的な粒子配置の自由体積(ソフトスポット)との相関が調べられたが否定された.香港との共同研究で,このトリガーは第2,3近傍まで含めた領域内に準空隙が複数粒子のファシリテーションを起こし,空隙が輸送される機構が明らかとなった(PRL2020).自由体積の異方性(重心)を求める方法論の適用により,連鎖の方向性やフリーエネルギー(エントロピー)の観点から統計法則の検証を進める.また,深層学習を導入し,隠された粒子構造とHoppingとの関係を明らかにする.非平衡流として自己駆動剛体円板系の相図を基礎に,多成分ガラス系の転移点シフト現象の有無を調べる.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画2年目では,初年度引き続き計算サーバ(約70~90万円)の導入を予定した.最新のスペックで,価格・性能ならびに研究内容を精査した結果,約70万円の計算サーバにコア数が十分あり,研究プロジェクト2年目の主目的を実行することが可能であった.そこで,計算サーバを1台追加で購入し,現在ある研究室の計算機サーバに組み込む形で環境構築し運用した.また,昨年度に引き続き,コロナ禍にて海外出張が出来なくなったため,旅費分の予算計画が大幅に変更となった.国際共同研究においては研究打ち合わせや情報の交換において,インターネットによるテレビ会議ソフトを利用したコミュニケーションが有効である.種々の通信機器の作業が円滑に行えるよう高速ワークステーション(ノート型)を購入するなど,物品使用計画を若干変更した.コロナ禍の状況を見て,研究計画最終年度での国際会議の参加の検討を行う.
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