研究課題/領域番号 |
20K03787
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
手塚 真樹 京都大学, 理学研究科, 助教 (40591417)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 量子カオス / Sachdev-Ye-Kitaev模型 / 多体局在 / 相互情報量 / 準位統計 / スペクトル構造因子 |
研究実績の概要 |
本研究は、重力系と対応しうる量子多体系のスクランブリングやカオス的ダイナミクスについて複数の具体的な問題設定で調べ、物性実験での実現方法を提案しようとするものである。初年度の実績は主に以下のものである: (1) 多体量子系での量子カオスの特徴づけについて、局所的な演算子のセットから作られる2点相関からなる行列の特異値スペクトルが、ランダム行列的なものとなることを見出した。これは相互作用が局所的な系で、非時間順序相関の指数関数的な時間依存性を数値的に見出すことが困難な場合に特に有効である。相互作用が全対全で「カオスの上限」を満たすことが知られているサチデフ-イェ-キタエフ(SYK)模型の場合に加えて、相互作用が隣接サイト間のみの1次元スピン鎖の場合に、この方法の有効性を示した論文を出版した。 (2) SYK模型はN個のフェルミオンがランダムなq点の全対全相互作用をする模型である。一般にqが4以上ではカオス的ダイナミクスとなるが、q=2では厳密に解ける。マヨラナフェルミオン版でq=2のときに、4点の均一な相互作用を加えていくと、ほぼ可積分な領域に挟まれてランダム行列的な振る舞いを示す領域があることを、固有値のスペクトル構造因子と準位間隔分布から示し、論文を出版した。 (3) スピン系の時間発展を量子チャネルととらえ、入力系と出力系の間の相互情報量を、単に時間発展した場合と、1個のサイトにスピン演算子を作用させた場合に関して調べた。イジング模型では、当初有効的な光円錐の描像が成り立つこと、長時間経過後にはペイジ曲線と呼ばれる曲線によく従うことを確認した。強い乱れを加えたハイゼンベルク模型では、多体局在により、量子情報の拡散が抑制されることを確認するとともに、相互情報量の時間依存性が、乱れに依存して決まるイジング型の有効模型でよく記述されることを明らかにした論文を投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度中の着手を予定していた各テーマに関して論文を投稿することができた。また、本研究課題に関連し、応募後に開始した国際共同研究による、SYK模型の変形で実現する多体局在付近で各種の物理量の解析的表式と数値的結果の定量的一致を示した論文も出版された。ただし、重力系との対応および、物性実験での実現方法については具体的な進捗に至っていない。これらの状況を総合して、当初予定していた程度の進展が得られたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
「カオスの上限」を実現し量子論的なブラックホールとホログラフィック対応をもつと考えられるSYK模型をより活用するとともに、カオス的なふるまいを持つ他の強相関模型も併用し、重力系に関して具体的な情報が得られるような物性実験の提案および、その基礎となる理論研究を引き続き行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
アメリカ物理学会(APS)への参加および、研究協力者の所属する外国機関への滞在を予定していたが、APSはオンライン開催となり、滞在も日程の再調整が必要となった。研究会等の国内出張も予定していたが、いずれも中止またはオンライン開催となり、国内の他研究機関への訪問も困難となった。なお、年度末に研究協力者を京都大学に招聘したが、4月に入ってから所属機関に戻ることとなったため、往路分も含め2021年度に旅費を支出することとなり、2021年度支払請求書に記載したよりも未使用額が増加した。 次(2021)年度使用額については、当初計画通りラックマウント計算機を購入するほか、研究の推進および成果発表のため、主に旅費・論文掲載料として有効に使用する計画である。
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