現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概要欄で、バルクエッジ対応が一見破れているように見えることを述べた。この困難を解消し、バルクエッジ対応、ひいては、トポロジカル絶縁体の概念を非エルミート系にスムーズに一般化する処方箋として、次の2つが存在する:1)通常の周期境界条件に、修正を加える(一般化する)か、2)それを本質的に諦める。我々は1)の処方箋を提唱した[1]。また、非エルミート系特有の「もう一つの」バルクエッジ対応[2]に関して、系に乱れを加えた場合、乱れの強さに応じて、スペクトルは複素から実へと転移する[3]が、このスペクトルの複素-実転移は波動関数の非局在-局在転移と同時的に起こる。非対称ホッピング型(羽田野-ネルソン型)の系の場合は、非エルミート表皮効果が同じ点で消失し、それに対応してトポロジカル数も変化する4重転移となる。このように、非エルミート系においてバルクエッジ対応は元々のバルクとエッジの1対1対応からより多面的な対応関係へと深化するが、本研究では、この深化の様子をより詳細に検証した[4]。 [1] K.-I. Imura, Y. Takane, Phys. Rev. B 100, 165430 (2019); Prog. Theor. Exp. Phys. 2020, 12A103 (2020). [2] Z. Gong et al., Phys. Rev. X 8, 031079 (2018). [3] N. Hatano, D.R. Nelson, Phys. Rev. Lett., 77, 570 (1996); Phys. Rev. B, 56, 8651 (1997). [4] T. Orito and K.-I. Imura, Phys. Rev. B 105, 024303 (2022).
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今後の研究の推進方策 |
概要欄で、非エルミート系においては、表皮効果に関連したもう一つのバルクエッジ対応[1]があることを述べた。我々はこれまで、粒子間相互作用のない一体の問題についてこの現象の理解を深めてきたが、一方で、粒子間相互作用の無視できない多体の系については、一体問題の場合に確立されつつある解釈が必ずしも上手く機能しないと考えている[2-5]。今後の研究においては、このような非エルミート量子多体系における表皮効果とバルクエッジ対応について精査する。 ここまで、バルクエッジ対応、表皮効果といったエルミート系特有の境界条件に強く依存する物理について述べてきたが、実は、非エルミート系における波束のダイナミクスを調べると、エネルギー固有値やそれに対応する波動関数の性質が境界条件に依存して大きく変わる(e.g., 複素数→実数)にも関わらず、波束のダイナミクスはその影響を本質的に受けない[6,7]ことが最近我々が行った計算でも明らかになってきた。本年度はこのような非エルミート系における量子ダイナミクスやそれに多体効果も取り入れたエンタングルメントのダイナミクスなどについてより詳細に調べていきたい。 [1] Z. Gong et al., Phys. Rev. X 8, 031079 (2018). [2] E. Lee, et al., Phys. Rev. B 101, 121109 (2020). [3] F. Alsallom, et al., arXiv:2110.13164. [4] K. Kawabata, et al., Phys. Rev. B 105, 165137 (2022). [5] S.-B. Zhang, et al., arXiv:2201.12653. [6] L. Mao, et al., Phys. Rev. B 104, 125435 (2021). [7] N. Okuma, arXiv:2202.07684.
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