研究課題/領域番号 |
20K03789
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
梶原 行夫 広島大学, 先進理工系科学研究科(総), 助教 (20402654)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 液体-液体相転移 / 水 / 熱力学異常 / 音速 / 非弾性X線散乱 / 比熱 |
研究実績の概要 |
水の熱力学異常の起源について議論を進めた。まずは、自由エネルギーの経験的な表式[1]を利用して、様々な熱力学量の温度圧力変化を広範囲(1000MPa、1000℃まで)に求めてプロットし、その異常性や議論の核となる物理量の見極めを行った。一番重要なパラメータはやはり比熱。比熱を広範囲に見てみると、山なりのピークを形成している部分が高温域、低温域に2カ所ある。高温域は気体-液体(気液)相転移臨界ゆらぎによるもの。低温域のものが、1990年代に提唱された液体-液体(液液)相転移臨界点に対応したものと推論することができる。この状況を踏まえ、水のみならず一般液体の比熱の包括的な解釈を試みた。 比熱以外にもいくつかのパラメータの気液、液液二つの相転移に対応した変化から、液液相転移の気液相転移と類似の部分と本質的に異なる部分をまとめ挙げ、液液相転移の臨界ゆらぎの本質を議論をした。 また音速については、これまでの我々の非弾性X線散乱で求めた40MPa以下の低圧域の高周波数音速との比較を行った。その結果、高周波音速は臨界ゆらぎの影響を受けていない「臨界減速のない音速」と見なすことができ、これまでの我々の主張が妥当であることがわかった。 これらの成果については、5月に開催される「ガラス及び関連する複雑系の最先端研究」研究会(東大物性研短期研究会、2021/5/10-12、オンライン開催)で口頭発表予定である。また音速に関連する部分については、論文の草稿を完成させたので、今後公表を目指したい。 [1]W. Wagner and A. Pruβ, J. Phys. Chem. Ref. Data 31 (2002) 387-535
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初の予定では、今年度は既存装置を用いて高圧低温(500MPa、100℃以下)の水の非弾性X線散乱測定をSPring-8で行う予定であった。ただコロナ禍により、SPring-8の実験が極端に制限されたこともあり、実験を行うには至らなかった。また平行して、業者と共同で高圧高温実験用容器の開発を進める予定であった。ただこちらもコロナ禍の影響で業者との接触、あるいは業者の活動自体が制限され、十分に進めるには至らなかった。今後コロナの収束を見極めつつ進展させたい。 本来の実験方面の研究進展が望めないことから、今年度は方針を転換して、現在描いている水の熱力学異常のメカニズムについて、理論面の議論を進展させるとともに、論文化を進めることに注力した。これらは当初の予定にはなかったが、実績欄に記述したように、大いに進展した。
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今後の研究の推進方策 |
まずは現在草稿が完成している論文の公表を目指す。それにめどがつき次第、コロナ禍の影響も踏まえながら、実験面の研究を推進していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:コロナ禍の影響により、実験関係の研究が遅れているため。 使用計画:今後状況が回復し次第、出張実験の経費とする。万一コロナの状況が改善しない場合は、現在原稿が完成している論文、および今年度の研究実績をまとめる予定の論文を、オープンアクセスにするための経費とする。
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