研究課題
今年度は、これまでの研究に関して二つの論文執筆が進展した。一つ目は、過去行った低圧(400気圧以下)高温(500度以下)条件下の水の緩和強度測定の結果である。得られた緩和強度が、「定積」比熱と広い温度圧力領域で連動していることを新たに発見することができた。また、他者が報告しているより高圧域(<1GPa)の非弾性X線/中性子散乱実験データを解析してみたところ、この領域でもこの連動性が確認できた。これらの事実は、水の有名な比熱異常の起源がこの緩和現象であることを示しており、今回の議論で明らかになった大きな成果である。この緩和現象は、過冷却域に存在するとされる液体-液体相転移に由来する臨界ゆらぎと認識してよいと考えられるが、この点については、さらなる実験、議論が必要かもしれない。ただいずれにしても、本研究の主たる目標の大部分が達成された。これらの議論をまとめ海外雑誌に投稿、現在査読中である。またもう一本は、こちらも過去行った実験で、液体テルルの過冷却域の小角X線散乱測定の結果である。液体テルルは水と同様の熱力学異常を示し、そしてまた過冷却域に液体-液体相転移の存在が過去提案されている。その研究の歴史は実は水よりも古く、水では議論されていない、不均質性と電気伝導特性との関係も過去大きな論争となっていた。今回の実験結果では、小角散乱強度が過冷却域で極大を示している。これは最近水でも実験的に確認された事実であり、物質系を超えて、液体-液体相転移モデルが正しいことを支持する大きな実験証拠である。この研究に対して論文執筆を行い、海外雑誌に投稿した。こちらも現在査読中である。両論文は、投稿に先立ってarXivにそれぞれ原稿をアップロードした。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究開始当初予定していた、水の広い温度圧力領域の非弾性X線散乱実験は未だ実現できていない。ただ、今年度に行った議論で新たな方向性が展開したことによって、目的の重要な部分はほぼ達成された。
ここまでの、水の緩和強度測定の議論の内容については、広島で行われる液体金属の国際会議International Conference on Liquid and Amorphous Metals 18で口頭発表予定である。今後、当初の予定通りの水の非弾性X線散乱実験を行うか、あるいは別の類似の物質系で実験を行うかは今後の状況を見て判断したい。
今年度執筆した2本の論文の投稿料を支出予定であったが、査読が長引き、年度中に決算できなかった。掲載が決定し次第、この経費に使用する予定である。
過冷却液体テルルの小角X線散乱測定については、米国SLAC国立加速器研究所を中心とする国際共同グループと共同実験を行い、より詳細な実験データを得ることができた。この結果は、共著者として米国Proceedings of National Academy of Science誌にacceptされた。当該論文については投稿に先立ってarXivに原稿がアップロードされている。
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arXiv
巻: 2201.10065 ページ: 1-5
10.48550/arXiv.2201.10065
巻: 2201.06838 ページ: 1-24
10.48550/arXiv.2201.06838
巻: 2111.06589 ページ: 1-14
10.48550/arXiv.2111.06589