液体の水の音速緩和強度の温度圧力依存性の等高線図を、常温常圧から200度、10000気圧までの範囲で作成した。得られた緩和強度の温度圧力依存性は低温低圧域で極大となるような丘を形成しており、この緩和現象の起源が低温(恐らく過冷却域)低圧域に存在することが初めて明らかになった。またこの緩和強度の等高線図は定積比熱の等高線図とほぼ一致しており、水の有名な比熱異常の起源がこの緩和現象であることが初めて実験的に証明された。液体の水の熱力学異常を説明するモデルとして、過冷却域に液体-液体相転移(LLT)の存在を仮定するシナリオが提唱されているが、上記緩和現象はこの相転移の臨界ゆらぎに対応するものと見なして良く、LLTシナリオを強く支持する結果と言える。 これまで得られていた高温低圧域(<500度、<400気圧)の緩和強度の温度圧力依存性では、液体-気体相転移(LGT)臨界点付近で極大を示していた。今回の結果と合わせることで、音速緩和強度はLLT、LGTの両相転移に対応したメゾスコピックレベルの臨界ゆらぎとして非常に良いパラメータであることが示された。これらの結果を踏まえ、LLT、LGT臨界ゆらぎの類似点と相違点を包括的に議論した。 最終年度では、昨年度投稿した論文について、査読結果を受けて論文の大幅な改訂を行った。結果アメリカ物理学会誌(Physical Review Research)に掲載が決定し、また大学からプレスリリースも行った。また水のみならず一般液体の比熱を解釈する新たな理論の枠組みを着想し、物理学会等で発表を行った。論文執筆にも取りかかっている。
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