本研究では、地球上の生物が酸素を効率的に使うための進化の過程で獲得した膜貫通タンパク質のチトクロム酸化酵素について、その酸素還元反応とプロトンポンプ反応の共役機構と立体構造の間の相関関係の解明を目指して研究を遂行した。最終年度では、ウシ由来のチトクロム酸化酵素に対して最近発見されたアロステリック阻害剤の作用機序を古典分子動力学法で調べた(他大学、他研究機関との共同研究)。具体的には、13サブユニットからなる単量体のチトクロム酸化酵素の計算モデルをCO結合還元型X線構造に基づいて構築した。ここで、このモデルでは、チトクロム酸化酵素の酸素還元中心を形成する補欠分子族(ヘムa3)と銅イオン(CuB)は共に還元型、酸素還元中心に至る電子の移動経路上にあるる銅イオン(CuA)と補欠分子族(ヘムa)は共に酸化型であり、CO分子は除いてある。このチトクロム酸化酵素の計算モデルをphosphatidylcholineとphosphatidyleethanoalamineが1:1からなる脂質二重層に埋め込み、全体を水和させることで、生体内の条件を模倣した系を作成した。このように作成した計算モデルに対して、阻害剤を結合させた場合とさせなかった場合の2通りのシミュレーションを実行し、その結果を比較することで、タンパク質の立体構造にどのような変化が生じるか、その変化は機能阻害とどのような関係にあるのかを調べた。その結果、阻害剤がチトクロム酸化酵素に結合した場合のみ、結合サイトの近傍にあるヘリックス構造の1つが折れ曲がることが示唆された。この構造変化の結果、タンパク質内部にある酸素還元中心への酸素分子の輸送経路が狭まることが示唆された。
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