研究課題/領域番号 |
20K03798
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
鈴浦 秀勝 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (10282683)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 励起子 / 遮蔽効果 / 電子・格子相互作用 |
研究実績の概要 |
今年度は太陽電池ペロブスカイト材料における電子・格子相互作用に起因した励起子吸収スペクトルに対するクーロン相互作用遮蔽効果の理論解析を行った.励起子束縛の強さは電子と正孔のバンド構造から決まる有効質量と実効的な誘電率から定まる.換算質量は電子構造から値を決定できるのに対し,この物質系の誘電率は周波数に強く依存し,静的誘電率は可視光近傍の値と比較して10倍にも及び,束縛エネルギーに換算すれば100分の1となる.実験的にはその中間的な値になることが知られている.単一の周波数を持つアインシュタインフォノンによる電子と正孔の散乱を考慮して光学伝導率を計算することにより,励起子束縛エネルギーに対する動的遮蔽効果の影響を調べた. 従来の計算ではアインシュタインフォノンによる現実的な誘電率変化では実験で観測される束縛エネルギーの縮小を説明できなかったため,今回は有効モデルとして誘電定数を任意に変化させ影響を調べた.その結果,静的誘電率がいかに大きくなろうとも,現実的なフォノン周波数を考える限り,単一モードのフォノン散乱で達成される遮蔽は不十分であることが明らかになった.静的遮蔽による定数誘電率模型であれば適当な値を設定可能なのに対し,動的効果を取り入れる遮蔽は制限を受けることになる.実際の物質では,極性分子の存在による配向分極が静的遮蔽を支配していると予想され,その方向のランダムネス等の効果を同時に考慮する必要があると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は2光子吸収係数の実験結果の解析を優先し非線形光学応答の計算を先に実施した.本年度は第一の目的であった電子・格子相互作用による動的遮蔽効果の系統的評価を行った結果,単一モードのアインシュタインフォノンでは励起束縛エネルギーの値を説明できないことを明らかにした.これは,電子と正孔がランダムに配向した極性分子から受ける相互作用の重要性を示唆しており,次年度以降に計画通り配向分極の効果を取り入れることにより,実験結果に迫ることが可能になると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定通り極性分子の効果を取り入れるとともに,フォノンについても複数モードの効果などを考慮し,励起子吸収についての理論解析を進めていく.さらに,微粒子系の多粒子束縛状態についての実験結果を解析するための計算を並行して実施する.
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