研究課題/領域番号 |
20K03800
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
川上 洋平 東北大学, 理学研究科, 助教 (60731172)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 高次高調波発生 / 強相関電子系 / 超伝導体 / 非線形分光 / アト秒干渉計 / 時間分解分光 / 単一サイクル赤外光 / キャリアエンベロープ位相 |
研究実績の概要 |
1) 高次高調波スペクトルの精密測定技術の開発: 単一サイクル近赤外光によって発生する高次高調波スペクトルの精密測定技術の確立を目指した。複屈折結晶で構成される可視フーリエ分光システムと回折格子型の分光器を組み合わせることで、スペクトル測定の精度が飛躍的に向上した。この技術の主な利点として、(1)ダイナミックレンジの拡大、(2)波長分解能の向上、(3)広帯域測定時でも波長フィルタが不要なこと、などが挙げられる。さらに、本研究では広帯域な基本波によって発生する高調波も必然的に広帯域となり、しばしば次数の帰属の決定が困難となる。本年度はこの課題にも取り組み、上記のフーリエ分光技術を応用して高調波を“狭帯域化して”観測する手法も開発した。 2) 銅酸化物高温超伝導体の高次高調波発生: 開発した精密測定技術を用いて、銅酸化物高温超伝導体YBa2Cu3Oyの第三および第五高調波発生を観測した。特に微弱な第五高調波発生を観測できたのは上記の精密測定技術に依るところが大きい。 3) 強相関物質の時間分解反射/透過分光: 高次高調波発生分光の予備実験として、高温超伝導体YBa2Cu3Oy、ディラック半金属SrIrO3、量子スピン液体物質α-RuCl3を対象に、反射/透過配置のポンプ-プローブ実験を行った。 4) 時間分解高調波発生分光: 時間分解高調波発生分光のデモンストレーションとして、光励起-第二高調波発生(SHG)プローブ実験を行い、電子強誘電体α-(ET)2I3の光誘起絶縁体-金属転移を調べた。光励起後の反射率とSHGの時間プロファイルを比較することで、光誘起金属/強誘電ドメインの複雑な時空間ダイナミクスを示唆する結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に沿って順調に進んでいるため。 2020年度: 1) 光キャリアーエンベロープ位相(CEP)を精密制御した単一サイクル近赤外光を用いて、有機超伝導体κ-(ET)2Cu[N(CN)2]Brの第二高調波発生(SHG)を詳しく調べた。基本波のCEPに依存してSHG強度が変化する結果から、フェムト秒スケールの電子の運動と超伝導ゆらぎとの関連を見出した。2) 多体電子のアト秒ダイナミクスを観測するための超精密光学系の構築を進めた。光学系の試作と評価を繰り返し、50アト秒以下の時間分解能を達成した。 2021年度: 1) アト秒精度の干渉計を応用し、高次高調波スペクトルの精密測定技術と、広帯域な高調波の次数の帰属を調べるための実験手法を開発した。2) 単一サイクル近赤外光を用いて銅酸化物高温超伝導体YBa2Cu3Oyの高次高調波スペクトルを測定した。開発した精密測定技術によって、微弱な第五高調波の検出に成功した。3) 高温超伝導体YBa2Cu3Oyやディラック半金属SrIrO3、量子スピン液体物質α-RuCl3などを対象に反射および透過配置のポンプ-プローブ測定を行った。4) 電子強誘電体α-(ET)2I3を対象に時間分解高調波発生分光のデモンストレーションを行った。反射率とSHG強度の時間プロファイルを比較することで、光誘起相転移の超高速時空間ダイナミクスを示唆する結果を得た。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は高次高調波の精密測定技術を開発し、銅酸化物高温超伝導体の微弱な第五高調波の観測にも成功した。本研究で開発した測定手法の大きな利点は、高調波スペクトルの形状の詳細を評価できる点にある。次年度は、すでに予備的なポンプ-プローブ実験を実施した高温超伝導体(YBCO)、ディラック半金属(Ir酸化物)、モット絶縁体(V2O3)、量子スピン液体物質(α-RuCl3)などの高次高調波を測定し、そのスペクトル形状を詳しく調べることで多彩な電子状態の微視的な起源に迫りたい。併せて、時間分解高調波発生分光のための実験技術の拡充も進め、それぞれの物質の電子状態を特徴づける相互作用の実時間観測も目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
新しい測定技術の開発にあたり、試行錯誤と装置設計に時間を要したため次年度使用額が生じた。ただし、これらはおおむね想定の範囲内であり、本研究は順調に進捗している。次年度使用額は実験系を改良および拡張するための費用に充てる。
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