研究課題/領域番号 |
20K03803
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
松本 益明 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (40251459)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 二酸化チタン / 水素 / 光触媒 / 低速電子回折法 / 光電子分光法 / 核反応解析法 |
研究実績の概要 |
2020年度においては,単結晶TiO2(110)基板を高温で水素処理することで,表面を黒化させた黒色TiO2試料について,低速電子回折法(LEED)と走査トンネル顕微鏡(STM)を用いて幾何学的な構造を評価した.LEEDでは,黒色化により,基板の回折点に加えて新たな回折点が出現し,入射電子エネルギーを変化させると,基板の回折点に向かって移動することから<1-11>方向に周期的なステップが形成されていることが示唆されたが,STMではそのような構造を確認することができていない.また,紫外及びX線光電子分光法(UPS及びXPS)を用いて電子状態を測定した.UPSでは,黒色化によりフェルミ準位から0.8eVの位置にギャップ中準位が生じることが確認され,価電子帯の上端に裾構造が生じることからバンドギャップの狭小化が起きていることが確認された.XPSでは,黒色化により,Ti4+の2つのピークの低結合エネルギー側に新たなピークが出現した.このことから,約30%のTi4+がTi3+に変化したことが分かった.O1s軌道は大きく変化しなかったが,O2-に由来するピークが高エネルギー側に裾を引いており,OH基の形成が示唆された. さらに,メタノールの分解による水素生成を光照射の有無のもとで測定することにより,光触媒としての能力を測定し,水素化前の試料と比較した.その結果,黒色TiO2では水素化前の試料に比べて光触媒活性が1.75倍向上していることが分かった.しかしながら,波長が440 nm以上の可視光照射の元では有意な水素生成を確認できなかった.黒色TiO2薄膜中の水素の深さ分布及び濃度は各反応解析法(NRA)を用いておこなった.未処理でも観察される表面の水素(主に水)に加えて,黒色化後は深さ4.3 nmの位置にピークが観察されるようになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言の影響を受けて,東京大学物性研究所での作業ができず,陽電子を用いた実験を進めることができない状況であった.従って,東京学芸大学及び東京大学生産技術研究所での実験を主に進めることになった.その中で,試料作成方法を改善し,LEED,UPS/XPSおよびNRAのその場測定を可能にして,実験を進めることで,いくつかの新たな発見をすることができ,今後の課題が明確になったため,大幅な遅れになることはなかったと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
2020年度の研究においては,東京大学物性研究所の陽電子測定装置については整備を進めることができなかったため,今後進める必要がある.問題は陽電子線源であり,弱くなった線源の交換が必要であり,どのような方法があるか模索中である.陽電子装置については,高エネルギー加速器研究機構の装置も含めて,他の研究所の装置を利用することが現実的であると考えている.コロナ禍に伴う緊急事態宣言の下では移動の制限等もあり,他の研究所等での作業が困難なため,当面の間は東京学芸大学や東京大学生産技術研究所で2020年度に明らかになった問題について,研究を進める予定である.現在のところLEEDで確認された周期的なステップ構造をSTMで確認することができていないが,STMの探針や試料の品質に問題がある可能性が高いため,試料作成後すぐにその場測定を行うことにより,TiO2の黒色化に伴う表面構造の変化を明らかにしたいと考えている.さらに光電子分光法の装置でもその場測定することにより,ギャップ中準位および価電子帯上端の裾構造と構造変化との関係を明らかにして,黒色TiO2の光触媒活性の向上の要因を明らかにしたいと考えている.これまでのNRAの実験で観察された表面近傍の水素原子の数はTiO2の約1%程度に過ぎないため,水素化による表面構造の変化後に水素が脱離している可能性がある.NRAはある程度の圧力の水素雰囲気中でも測定が可能であるため,水素化をしながらNRAを測定することでTiO2の水素化の過程を探ることも有用であると考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
現在までの進捗状況にあるように,新型コロナウイルス感染拡大に伴い,全ての学会活動がオンラインとなり,国際会議も参加が困難で,研究活動にも制限があったため,旅費を使用する必要がなかったことが1つの理由である.研究自体も大きく制限を受けたため,若干遅れており,使用する試料等も少なくなった.今年度の後半にはコロナの感染状況が改善し,制限がなくなってからは積極的に国内外での会議に参加して研究成果を発表するために使用する予定である.陽電子装置についても整備することを考えており,電源や測定系などに使用する予定である.
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