研究課題/領域番号 |
20K03804
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
斎藤 弘樹 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (60334497)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 機械学習 / ニューラルネットワーク / 冷却原子 / ボース・アインシュタイン凝縮 / 量子渦 |
研究実績の概要 |
2017年スイス連邦工科大のグループが、人工ニューラルネットワークを利用して量子多体問題を数値的に解く方法を提案した。これは、量子多体状態の広大なヒルベルト空間を、機械学習の手法を用いて効率良く表現し、量子多体計算を古典計算機で近似的に実行可能にする方法である。本研究代表者はこの方法をいち早く深層ニューラルネットワークに拡張し、冷却原子系の量子多体問題に適用して、基底状態が精度良く求まることを示した。本研究計画では、この手法を大規模な深層ニューラルネットワークへと展開し実用性を探求するとともに、未だ開拓されていない領域、すなわち冷却原子系の時間発展や有限温度の問題等に適用することを目指している。 今年度は、冷却原子系に機械学習の方法を応用する研究において、進展があった。冷却原子系(ボース・アインシュタイン凝縮体, BEC)は外部からの制御性が非常に高いことが知られている。例えば、外部からレーザーによってポテンシャルを形成し、それを動かすことによって量子渦を生成できることが知られている。しかしながら、この系はグロス・ピタエフスキー方程式という非線形方程式に従う、本質的に非線形な系であり、どのように外部から操作を加えれば望みの状態になるかは決して自明ではない。望みの状態、例えば、量子渦がある配置になった状態を得るために、どのような外部操作を加えればよいかが知りたい。本研究では、強化学習の手法を用いて、外部操作の手順が得られることを明らかにした。強化学習とは機械学習の一手法で、望みの結果を得るために、どのように行動すればよいかを自ら学習を通じて探し出す方法である。これを適用した結果、外部ポテンシャルを様々に動かした結果が学習され、最終的に望みの状態に持っていくための最適な外部操作法を得ることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた、冷却原子系への機械学習の応用に関して、研究実績の概要で述べたような重要な進展があり、結果が論文として出版されたため。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の主な目標である、量子多体問題への人口ニューラルネットワークの応用に関して研究を進めている。特に光格子中のボース粒子系に関しては、量子多体系の時間発展を近似なしに直接計算する手法が存在しないため、本研究課題の手法は有力なものとなりうる。これまでの研究では、時間発展に関してはスピン系しか扱われておらず、ニューラルネットワークの手法がボース粒子系に有効であるかどうかは明らかになっていない。小規模な系について、これまでスピン系で提案されている時間発展の手法をボース粒子系に試しつつ、精度を上げるための新たな手法を開発する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年末に登場した高性能計算ユニット(NVIDIA A100 80GB)が入手可能になるのを待っていた。今年度前半には購入する予定である。価格は200万円前後となる見込みで、前年度残額と今年度配分額を合わせて購入する予定である。
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