本研究では冷却中性原子を用いた小規模量子コンピュータの開発を行う。最外殻に2個の電子を持つイッテルビウム(Yb)原子を使用し、その171同位体が持つ1/2核スピンや特異な性質を示す2電子リュードベリ状態の活用によって、外場の影響を受け難く量子力学的性質を保持できる時間(コヒーレンス時間)の長い小規模マシンを開発する。この目的に向けて、研究期間を通じて以下の研究を行った。 1)核スピン操作のための光源開発。単一核スピン操作には、2本のレーザー光を用いたラマン遷移を用いる(遷移波長は556nm)。波長1014nmの外部共振器半導体レーザー出力から第二次高調波発生(SHG)を用いて556nm光源を作製した。核スピン間の操作には、各原子をリュードベリ状態へと励起し、原子間の双極子相互作用を利用する。リュードベリ励起は中間状態として準安定状態を介した二光子励起で行う。準安定状態への励起波長は507nm、そこからリュードベリ状態への励起波長は325nmである。それぞれ波長1014nmと650nmの半導体レーザーの出力に対してSHGを行い、実験に必要となる出力を得た。 2)イオン化および電場補正のための電極の導入。リュードベリ状態に対する外部電場の影響を抑制するため、残留電場補正用の八重極電極を設計・製作し、実験用真空槽内に設置した。この電極への高電圧の印加によって、リュードベリ状態のイオン化検出が可能となる。上記1)とは異なる現有の光源を使ってリュードベリ励起を行い、それをイオン化検出することで製作した電極が適切に動作することを確認した。 3)Yb原子アレイの構築。波長532nmの高出力レーザーを用いた光ピンセット技術によって、単一のYb原子を捕捉することができる。2個の音響光学素子を用いて光ピンセットを2次元格子状に多数作製する技術を確立し、そこに単一Yb原子を捕捉する実験に着手した。
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