研究課題/領域番号 |
20K03807
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
江藤 幹雄 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (00221812)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 量子ドット / クーロンブロッケード / 光電流 / テラヘルツ波 / ディッケ効果 / アハラノフ・ボーム効果 |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、量子ドット集合系にテラヘルツ(THz)光を当てたときの光電流(photocurrent)の物理を開拓し、高感度THz光検出器への応用を提案することである。当該年度は、単一量子ドットにおけるフォトン支援トンネル現象の散乱理論を用いた再定式化、並列2重量子ドット系の光電流における超放射現象の密度行列による計算、および実験で用いられる並列2重量子ドット系の輸送特性、および近藤効果の計算手法の提案、を行った。 フォトン支援トンネルは時間依存の問題の一つで、光電流との共通点も多い。その先行する理論研究に問題点が見つかったため、散乱理論による再定式化を試みた。時間に依存するシュレーディンガー方程式から出発することで厳密に解析解を求め、先行研究で使われている密度行列や非平衡グリーン関数の方法との関係を明らかにした。本手法は量子ドット集合系や近藤効果がある場合への拡張が可能である。 並列2重量子ドットの光電流における超放射現象に対しては、密度行列を用いることで、前年度のモデル計算とは異なる定式化を行った。2重量子ドットとリード間のトンネル結合によって生じる量子相関が超放射の実現にとって重要であることを示した。また、一般的な状況での光電流特性を数値計算によって評価した。 実験で用いられる並列2重量子ドット系の輸送特性、および近藤効果を計算する手法を提案した。まず、現実の実験系を、空間を離散化したタイト・バインディング・モデルによって表して数値シミュレーションを行う。次に、不純物アンダーソンモデルのパラメーターを、シミュレーション結果を再現するように決定する。最後に電子間相互作用を取り入れて近藤効果を厳密に評価する、というものである。この方法による計算で、実験結果と半定量的に一致する結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度までの成果として、まず「並列量子ドットの光電流における超放射現象のモデル計算」を行い、論文を発表した。次に「単一量子ドットにおける光電流の定式化」、および「並列2重量子ドットの光電流におけるアハラノフ・ボーム効果」について研究を行い、現在学術雑誌への投稿論文を準備中である。 本研究課題のテーマである光電流の定式化には、時間に依存するハミルトニアンをどのように定式化するか、という一般的な問題の解決が必要となる。本年度は、その基礎問題として「単一量子ドットにおけるフォトン支援トンネル現象」に着目した。その現象に対しては多くの先行研究があるが、その中にいくつかの問題点が見つかったため、散乱理論による再定式化を試みた。時間に依存するシュレーディンガー方程式から出発することで厳密解を求め、先行研究で使われている密度行列の方法や非平衡グリーン関数法との関係を明らかにした。この知見を基に、並列2重量子ドット系の光電流における超放射現象に対して、密度行列による計算を行った。以前のモデル計算と異なるアプローチを取ることで、超放射で現れる量子相関の理解を深めた。 フォトン支援トンネル現象の定式化は当初の研究計画にはなかった内容だったため、光電流の研究の進捗状況に若干の遅れが生じた。が、目的に向かって確実に前進している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度、並列2重量子ドットにおける光電流を密度行列によって定式化し、解析解の導出、および数値計算を行った。その計算をより多くの量子ドット系に拡張することを試みる。解くべき方程式の変数が増大するため、それを回避して解析解を求める方法を考案する一方、数値計算を用いて一般的な状況を調べる。実際の実験系で不可欠な量子ドットの不均一性の効果、および位相緩和過程を取入れて、超放射による光電流の増大機構の有用性を明らかにする。 次に、量子ドット中のフォノン励起の効果を取り入れてフランク・コンドン効果の輸送特性への影響を調べ、その光誘起による制御方法を提案する。また、光電流やフォノン励起の光制御において、電磁場の量子化を行い、単一量子ドットの高感度テラヘルツ(THz)光検出器としての性能評価を行う。 THz光以外に、量子ドット集合系に表面弾性波(Surface Acoustic Wave; SAW)を当てた場合、機械振動子を結合した場合、等の実験状況の研究についても検討中である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020~2021年度、参加予定であった国際会議や国内学会の多くが中止、あるいはオンライン開催に変更となったため、多くの予算が2022年度へ持ち越しとなった。2022年度はほぼ計画通りに研究を遂行したが、それまでの持ち越し分のすべては消費できず、次年度へ再度の持ち越しとなっている。 次年度は、3件の国際会議での成果発表、国内学会への参加・発表、および研究打ち合わせのために旅費を使用する。また、物品費、人件費・謝金の経費執行を計画している。
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