研究課題/領域番号 |
20K03808
|
研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
宮島 顕祐 東京理科大学, 理学部第一部応用物理学科, 准教授 (20397764)
|
研究分担者 |
石川 陽 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (10508807)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 超蛍光 / 量子ドット |
研究実績の概要 |
超蛍光はコヒーレントに結合した多数の二準位系からの協同的な発光であり、パルス光として放出される。二準位系のコヒーレンス形成は自然放出光をトリガーとして自発的に生じるため、量子揺らぎに起因して超蛍光パルスはその時間発展などが揺らいでいる。我々は、NaCl単結晶中に分散したCuCl量子ドット集合系からの超蛍光に注目し、コヒーレンス形成過程に寄与する量子揺らぎを捉えることを試みている。これまで、単一パルス発光の偏光度を測定する実験系を構築し、偏光度の揺らぎを捉えることに成功した。そして、励起空間内ではコヒーレンス形成領域(ドメイン)が複数存在していると考えることで、実験結果が説明できる。そして、ドメイン数を減らすことが偏光度ゆらぎの観測に有効であることを示した。 2021年度は、偏光度揺らぎについて詳細な研究を行った。まず、単一パルス発光について直線偏光度と円偏光度をそれぞれ測定できるように実験系を改良し、それらの励起密度依存性を測定した。その結果、発光が自然放出から超蛍光へ移行する過程において偏光度揺らぎは増大していき、超蛍光発生のしきい値付近で最も大きくなる結果となった。これは、量子揺らぎが超蛍光発生機構に影響していることを示している。さらに高密度励起下で発光の大部分の寄与が超蛍光となっていくと、偏光度揺らぎは減少した。これは単一発光に寄与するドメイン数が増えることによって、観測される偏光度が平均化されていることを示している。直線偏光度と円偏光度の2つを同じ励起条件下で測定した結果、偏光度揺らぎの励起密度依存性は同じ振る舞いを示した。 一方、NaCl端面からの発光の空間モードを測定した結果、超蛍光は試料から2つの放射モードに分かれて放射されていることが明らかとなった。よって、1つの放射モードを選択的に取得することで、偏光度揺らぎを明確に捉えることができると考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度までに構築した単一パルス光の偏光度を測定する実験系を利用することで、直線偏光及び円偏光の偏光度分布の励起密度依存性を得ることができるようになった。その結果、量子揺らぎに起因する偏光分布の励起密度依存性を捉えることができ、複数のドメインが超蛍光に寄与する機構があることが示された。また、1つのドメインからの超蛍光の偏光度は完全にランダムに発生すると仮定した場合の、偏光度のシミュレーションを行うことができるようになった。現在、実験結果とシミュレーションを比較した結果、200個程度のドメインが観測された超蛍光に寄与していると想定している。超蛍光発生機構における量子揺らぎをより明確にするには、よりドメイン数を減らした状態での実験が必要となる。 一方、CuCl量子ドットを分散している母体結晶であるNaClの端面において、発光の空間プロファイルを測定した結果、超蛍光は試料から2つの空間モードに分かれて放射されていることが明らかとなった。我々が調べた限りでは、観測されたような空間モードが生じる前例がなく、その発生理由は現在考察中である。試料形状や励起空間を変えることによって、この空間モードの発生機構を明らかにすることができると考えている。さらに空間モードを選択的に取り出して単一パルスの偏光度測定を行うことによって、より量子揺らぎの影響を明らかにすることができる。 また、これまでの実験結果から、NaCl結晶内におけるCuCl量子ドット分布の均一性が空間モードや偏光度に重要なパラメータであることが考えられる。これまで、試料評価の方法としてXRDによる結晶性評価とXRFによるドット密度の評価を行ってきたが、新たに発光及び吸収スペクトルの空間分解測定を行う実験システムを構築した。この結果、超蛍光発生機構を捉えるための実験データに関して、より明確で信頼性の高い議論ができると期待している。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究方針について、最初に試料に関する課題を2つ示す。1つは「空間的に均一な量子ドット集合系の作製とその評価」である。試料は横型ブリッジマン法及びアニール処理によって作製したCuCl量子ドットを内部に分散したNaCl単結晶であるが、分解能0.1mm以下での発光・吸収空間分解測定によって量子ドットの空間分布均一性を評価する。2つ目は「超蛍光空間モードにおける励起空間への依存性」である。現在は厚さ0.5 mmの試料において、その表面と裏面付近から超蛍光が発生している。試料厚さ及びシリンドリカルレンズを用いた励起長を変化させることで、量子ドット集合系の励起空間が変化する。その結果、超蛍光の空間モードを捉えることで、量子ドットでのコヒーレンス生成過程を考察することができる。 次に、光学測定に関する課題を2つ示す。研究の方針として「1つのドメインからの超蛍光パルスを捉える」ことを目的としている。具体的には励起体積を小さくすることで生じるドメイン数を減らし、また発光検出光路にピンホールを置くことで観測するドメイン数を減らす。一方、発光の検出効率を向上させるために実験系をよりコンパクトにする。現在、シミュレーションによって見積もっているドメイン数が約200個であるが、その10分の1程度に減少させることを考えている。次に、「外部光によるコヒーレンス生成の制御」を行う。外部からの光によってコヒーレンス形成が生じることがあれば、超蛍光の揺らぎは小さくなり、パルスの時間発展も制御することができる。また、励起空間内を光が伝搬していく効果を明らかにし、より指向性の強い超短パルス光を実現する機構を提案していく。 また、上記の実験結果については、理論計算によって予想の裏付けを行っていく。超蛍光の空間モード発生については半古典論、偏光度分布については全量子論に基づいた計算が有効である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究発表を行った学会がオンライン開催になるなどによって、交通費を支出することがなくなったため、次年度使用額が生じた。 今年度の試料作製の材料費として使用する予定である。
|