超蛍光はコヒーレントに結合した多数の二準位系からの協同的な発光であり、パルス光として放出される。二準位系のコヒーレンス形成は自然放出光をトリガーとして自発的に生じるため、量子揺らぎに起因して、超蛍光パルスはその時間発展などが揺らぐ。我々は、NaCl単結晶中のCuCl量子ドット集合系から生じる超蛍光の量子揺らぎを捉え、コヒーレンス形成の発生機構を解明することを目的として研究を行ってきた。前年度まで、発光の偏光度をシングルショットで測定する実験系を構築した。偏光度測定により量子揺らぎを反映している結果は得られたものの、それを確証するためには、励起空間を小さくしてドメイン数を減らす必要があると結論づけた。また、超蛍光が複数の放射モードを持って生じていることを初めて観測し、試料の結晶性の改善や励起空間内での光の伝搬効果を考慮していく必要があることが分かった。 そこで、2022年度は主に、励起光の励起密度・励起エネルギー・励起体積の3つを変化させながら、発光時間分解分光及び空間的放射モードの測定を系統的に行った。放射モードは励起エネルギーによって変化した。これは、励起子分子の生成過程が二光子吸収過程から1光子吸収過程に変化することで、励起空間が変化したことを反映している。また、励起空間を変化させることによって、最も強い超蛍光パルスを発生させるための、最適な励起密度と励起体積があることを見出した。これは、量子揺らぎを捉えるためのシングルショット測定を行う上で、必要な知見である。また、2022年度の研究によって、励起子共鳴励起下の高密度励起で、励起子分子発光とは異なる超短パルス光が生じることを見出した。その発光起源は解明できていないが、生じた発光の励起密度依存性は超蛍光の振る舞いを示している。より高強度かつ長短パルス発光の発現は、量子揺らぎを捉えるために必要な条件である。
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