スピンノイズ・核磁気共鳴法の開発と核四極子相互作用(NQI)チューニングの実証に向けて,令和4年度は以下に取り組んだ: 1) 単一量子ドット(QD)の時間分解ハンル測定を通じて,歪み誘起NQIが核偏極 (NSP)に与える影響を調べた.これまでNQIの主軸はQD成長軸に沿うと考えられてきたが,発光円偏光度 (電子スピン分極の指標)の挙動から,NQIが面内成分を有し,それが横磁場下での巨大NSP形成(異常ハンル効果)の鍵であることが分かった.これはNQIに関する新しい知見であり,国際会議での口頭発表に加え,学術誌に投稿した(査読中). 2) 昨年度まではナノピラー化した半導体を圧電素子上に散布・固定する歪み印加デバイスを作製してきたが,本年はバルク試料の研磨プロセスを開始,薄膜化した後で圧電結晶に接着する構造を試作した.これにより,半導体の結晶軸と外部歪みの方向の関係を制御しやすくなる.作製技術を蓄積しつつ,NQIチューニングの高感度検出が見込める時間分解カー回転測定をn-AlGaAsバルクを搭載したデバイスで行った.外部歪みに応じた信号の変化が確認できたが,更なる薄膜化や接着剤の選定が歪み印加デバイスの性能向上に必要であることが明らかになった. 3)これまでn-AlGaAsバルク(Al:15%)において,混晶化によるNQIとの関連が予想される興味深い現象 (外部磁場を凌駕する巨大NSP形成,GaAsに比べて長いNSP形成・緩和時間等)を調べてきた.本年は全光核磁気共鳴法による核スピンダイナミクスの調査 (学会発表済み)に加え,Al濃度が異なる試料を導入し,NQIへの影響の有無を調べた. その他,電子-核スピン相関時間の磁場依存性の検証(学会発表済み,学術誌への投稿準備中)に加え,歪み誘起価電子帯混合による発光偏光状態と正孔g因子の変化(学会発表済み)で成果を得た.
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