研究課題/領域番号 |
20K03815
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
中山 隆史 千葉大学, 大学院理学研究院, 教授 (70189075)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 金属/半導体界面 / ギャップ状態 / 第一原理計算 / ショットキーバリア / 半導体粒界 / pn接合界面 / トンネル電流 / 直接・間接ギャップ半導体 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、第一原理計算に基づき、金属/半導体界面におけるギャップ状態の生成・消滅機構や、電場下でのギャップ状態変形の仕組みを明らかにし、ギャップ状態の新しい理論(物理描像)を構築することである。本年度は、代表的なBi/Ge界面、有機半導体粒界、種々の半導体pn接合界面を対象に、以下の成果を得た。 1.Bi/Ge界面でのピニング破れの解明:多種の単純金属/Ge界面ではショットキーバリアが一定(フェルミレベルピニング)だが、Bi/Geではピニングが破れる。その起源を調べた結果、(1)Al/Ge界面では、Al-Ge共有結合ができ、その結合を介して金属の波動関数がGeのギャップ中に伸びるためピニングが起きるが、(2)Bi/Ge界面では、Biは原子半径が大きいためにGeと有効に結合せず、界面Ge原子はGe-Geダイマー結合を作りBi金属の波動関数の侵入を防ぐためピニングが破れることを明らかにした。 2.ペンタセン粒界でのオフセットと金属析出の検討:(1)粒界では、左右の密度差を原因にバンドギャップが変化し、価電子・伝導帯にオフセットが発生すること、(2)金属不純物原子は粒界の原子間に析出し、ギャップ準位を作りキャリアを捕獲させることを明らかにした。 3.直接・間接ギャップ半導体pn接合界面でのトンネル電流の解明:等価電なN不純物がpn界面の電場下でギャップ状態を変化させる仕組みを、直接・間接ギャップ半導体で比較して調べた。その結果、(1)Si,GaP等の間接ギャップ系では、電場下でギャップ中の不純物準位とバルク伝導帯状態の強い共鳴が起き、トンネル電流(バンド間遷移)を数桁増大させること、(2)GaAs,InP等の直接ギャップ系では、伝導帯の特性が異なるため共鳴による混成が小さく、伝導帯のバルク状態を乱すだけなのでトンネル電流の増大は起こらないことを解明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画していた金属(Bi)/Ge界面におけるピニング破れの仕組み解明の研究、直接・間接ギャップ半導体のpn接合界面における電場下のトンネル電流の相違とその原因の研究は概ね終了した。また、後者においては、電場下の第一原理計算による不純物原子軌道の変形や3次元トンネル電流を計算する手法が確立し、これら手法を用いて次年度以降の異なる次元のギャップ状態やトンネル現象の展開研究を実施する基盤も整ったため。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降、ここまでの研究を以下のように発展させる。 1.共有・イオン性界面層によるギャップ状態制御の解明:(1)金属・Ge層間に共有性及びイオン性の高い原子層(CdGe,GeO2,GaN等)を挿入した界面膜を作成し、第一原理計算を用いて、ショットキーバリアの変化(界面層依存性、界面膜厚依存性等)を調べる。特に、ギャップ状態の局所状態密度や界面での電子移動量を解析し、共有・イオン性の役割を解明する。また同様な計算を異なる半導体基板(SiC等)でも行い、半導体種依存性も検討する。(2)以上の結果を基に、物質パラメータを用いたギャップ状態消滅の統一モデル理論(物理描像)を構築する。特に、飛び移りenergy(共有性)とオンサイトenergy(イオン性)等を用いた強結合モデルの形で、共有・イオン性とギャップ状態密度の関係を明らかにする。 2.電場下の界面におけるギャップ状態変形の解明:(1)金属/(Si,SiC)界面に電場を印加した計算を行い、金属誘起ギャップ状態の局在長や波動関数の対称性の変化を調べる。特に、これら変化の界面方位・基板依存性を調べ、電場下のギャップ状態を特徴付ける指標を検討する。(2)様々な対称性を持つ点欠陥を電場下の金属/Si界面近傍の様々な位置に作成し、欠陥準位とバルク状態との共鳴強度を調べることで、ギャップ状態の共鳴条件を明らかにする。 得られた結果は随時、学会やSSDMやECS,ICPS等の半導体系の国際会議において発表すると共に、論文誌で公表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はコロナ禍であったため、国際会議等への出張旅費の分を、より高性能な計算機(52core)の購入にあてた。一方、慎重に計算機を選定したため計算機の購入時期が遅れたので、計算機の環境設定の一部(並列jobの管理等)が未だ終わっていない。この計算機環境設定を依頼する謝金などの予算約7万円を、令和3年度にまわした。 次年度の研究費は、コロナ禍を鑑み、令和2年度に購入した科学技術用計算機からの出力データを効率的に解析するために小型計算機等の購入(約25万円を予定)、これら計算機の環境設定(ここに次年度使用額を使う)と計算結果の解析を依頼するための謝金(約27万円を予定)、研究成果を発表するための論文投稿料及び国内外旅費にも使用する(約35万円を予定)。
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