研究課題/領域番号 |
20K03816
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
枡富 龍一 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (00397027)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 低次元系超伝導 / 非相反伝導 / ラッシュバ効果 |
研究実績の概要 |
本年度は層に依存したラッシュバスピン軌道相互作用をもつ単原子層超伝導体の積層構造を用いて、ラッシュバ多層系超伝導相の研究を行った。この系は複数の鉛の単原子層超伝導体と層間物質から構成されており、原子レベルで平坦なガリウム砒素(GaAs)劈開表面に形成される。この系の最大の特徴は、各々の超伝導体において空間反転対称性の破れから生じるポテンシャル勾配(電場)が逆向きに働くため、異符号のラッシュバ定数αをもったスピン軌道相互作用が生じることである。低温高磁場下での電気伝導測定において、複素ストライプ相からヘリカル相へのクロスオーバーを示唆する上部臨界磁場の異常を観測した。端的に複素ストライプ相とは超伝導秩序変数の振幅と位相の両方の変調により特徴づけられる状態であり、一方、ヘリカル相とは超伝導秩序変数の位相の変調のみで特徴づけられる状態である。さらに、観測された上部臨界磁場の温度依存性は柳瀬氏(京大理)によるBogoliubov-de Gennes方程式を用いた数値解析により良く再現されることがわかった。したがって、この研究成果は複素ストライプ相およびヘリカル相の存在を決定づける初めての実験的証拠であると考えられる。 今年度はさらに、面内磁場下においてラッシュバ効果に起因する非相反伝導が生じるか否かの検証するため、第2次高調波および超伝導臨界電流値の測定を行った。鉛単原子層単体、鉛とビスマスとインジウムの積層構造をもつ超薄膜に対して測定を行ったが、現時点においては非相反効果を示す現象は観測されていない。今度、イオン液体などを用いて強い電場をかける手法を用いて非相反効果の実現とその検出を目指す予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は層に依存したラッシュバスピン軌道相互作用をもつラッシュバ多層系超伝導体を用いて、電気抵抗値および上部臨界磁場の測定を行った。その結果、臨界磁場の温度依存性において急峻な立ち上がり(折れ曲がり)があることを明らかにした。Bogoliubov-de Gennes方程式を用いた数値解析と測定された温度依存性を比較することにより、その異常が複素ストライプ相からヘリカル相へのクロスオーバーを対応していることがわかった。さらに、ラッシュバ効果に起因する非相反伝導の検出を目的とする実験も随時開始しているここから、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究としては層に依存したスピン軌道相互作用のもつラッシュバ単原子層超伝導のハイブリッド系を実現し、空間反転対称性と時間反転対称性の破れにより生じる非相反伝導の検出と多層系超伝導特有の実空間で変調する超伝導秩序変数の可視化を行う。まず、非相反物理現象に関しては、多層構造の改良やイオン液体などを用いて強い電場をかける手法を用いて、電流の向きや磁場の向きに依存する非相反輸送現象の実現を目指す。さらに大きな整流効果が得られる場合、超伝導ダイオード素子への応用を行う。超伝導秩序変数の可視化に関しては、ハイブリッド多層系特有の面内磁場印加時に現れる複素ストライプ相を用いて測定を行う。トンネル分光測定により状態密度の可視化を行い変調周期の決定する。さらに、スピン軌道相互作用のある超伝導多層系の理論計算と比較検証を行うことにより、多層系に実現する非従来型超伝導の出現機構を解明する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究計画を実行する中で予期しない現象を観測した。この現象を明らかにするため、当初の実施計画を少し変更したことから次年度使用額が生じた。次年度、この繰越金を使用して新たな現象の解明も含め、当初の研究計画を実行する予定である。
|