研究課題/領域番号 |
20K03818
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
森永 実 電気通信大学, レーザー新世代研究センター, 准教授 (60230140)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 単一光子源 / 量子光通信 / 量子光学 |
研究実績の概要 |
単一光子の状態を情報の担い手として用いた量子通信は比較的実用化に近い位置にある。その実装においては単一光子発光体からの発光を効率よく伝送路である単一モード光ファイバーに結合させることが求められる。その手法には様々なものがあるが本研究では光ファイバー端を加熱により適切な形状に加工しその先端に単一光子発光体である量子ドット等の微小発光体を取り付けるという方式を採用している。この方法は製作法が潜在的には簡単でありかつデバイスとしての取り扱いも容易であるという利点がある。発光体からの発光の光ファイバーの伝搬モードへの結合効率はファイバー径が変化するテーパー部の径の変化率を抑え断熱条件を満たすことによりこの部分での損失をほぼ0にすることと先端を最適径にすることにより最大化される。後者はクラッドによる光閉じ込めが単一モードとなる条件に近く、概ね使用波長よりやや小さい直径を要求する。これらの条件を満たす光ファイバーの加工はすでに達成されているものであるが、本研究ではそれに加えてデバイスとしての機械強度を持たせるために先端付近のファイバー径が小さい区間を最短に抑えることを目指しており、加工の際の加熱源として加熱幅が狭い炭酸ガスレーザーを用いている。昨年度までにテーパー部の形状は目標に近いものができるようになっていたが、加熱幅が狭いために滑らかさが十分でなく損失が発生しており、また先端直径も目標値よりまだ3倍近く大きかった。そこで今年度はこの二つの課題それぞれに対応するための新たな機構をファイバー加工装置に導入し、制御系の拡張および試験加工までを行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今まで光ファイバーの加工はレーザー照射による加熱点の左右でファイバーを固定している左右独立のステージを動かすことによって行なっていた(照射点は固定)。このためステージを折り返すときにファイバー径の変化が多少とも階段状になり損失につながっていた。そこでレーザー光を導いているミラーにGalvoミラーを導入し高速に(周期100Hz程度)照射点を掃引することにより滑らかさが要求される区間では加熱幅を大きくとることができるようにした。また実際に試験加工を行い損失が改善されていることを確認した。細い先端径が得られないという第二の課題であるが、ファイバー径が5μm程度以下になるとそれ以上細くなりにくい傾向が見られる。それはこの領域ではファイバー径が石英ガラスによる炭酸ガスレーザーの吸収長程度以下になるため吸熱量はファイバーの体積に比例し、一方出ていく熱は面積に比例する要素があり、より細い径では相対的に放熱が勝り温度が低下するためである。今まではレーザー光強度を上げることによってこれに対処していたが適切に制御することが難しい。そこで今年度からステージとは別に高速でファイバーを引く機構を導入し、温度が低下する前に一気に引き切ることを試している。ただし加熱に対して引くタイミングが微妙で、現状では軟化する前に引いてしまって太いままちぎれるか、遅すぎて引く前に溶断されてしまっている。これについては制御ソフトウェアの改良により対応が可能だと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度までに光ファイバーの加工装置の機能はすべてが組み合わされ試験加工もすでに行なっている。 現状では加工装置に新たに二つの機構が導入されたため制御ソフトウェアの機能がそれに追いついていない。今までステージ動作以外の操作はレーザーのON/OFFおよび出力変更のみであったためステージを制御するマイコンが司令塔になってレーザーへの指示を出していた。二つの機能が加わったのでこれを、ステージ用マイコンが制御するのは比較的早い応答が求められるレーザーのON/OFFとファイバーを高速で引くソレノイドのみとし、Galvoミラーおよびレーザー出力の制御はPCが分担するようにソフトウェアを更新する。このことにより加工パラーメータの自由度が上がり試験加工では試せなかった加工法を実行できるので目標とする形状に近いものが加工できると期待される。 またある程度の特性を持ったファイバーチップが加工できたら量子ドットを取り付けてファイバー経由の光子の相関計測を行ないデバイスの評価を行う予定である。FPGAを用いた相関計測装置の開発も同時並行で行なっているのでその性能評価も併せて行ないたい。
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