研究課題/領域番号 |
20K03820
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
大橋 史隆 岐阜大学, 工学部, 准教授 (20613087)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 半導体 / クラスレート / IV族系材料 / ナトリウム / 薄膜 |
研究実績の概要 |
IV族系II型クラスレートは、原子のかご構造をもつ結晶であり、かご中にはNa原子などを内包する。内包原子を取り除いたIV族系クラスレートは半導体であり、太陽電池等の新規光デバイス用材料として期待できる。従来は粉末状もしくは小さな単結晶での合成のみ報告されてきたが、近年我々のグループで薄膜化に成功した。これまで、 Na内包IV族系クラスレートのNa内包量制御(Na低減)は、真空下における 数日間の熱処理により行ってきた。半導体への応用の観点からは、Naを減らす技術の開発が必要であるとともに、異なるNa内包量を持つクラスレート膜に対して、電子物性および光物性を明らかにする必要がある。 これまでに、比較的均一かつ広範囲に膜状合成可能なII型Geクラスレートに注目し、薄膜状合成条件の最適化を行うとともに、従来の方法に加えて、電界印加等による内包Na量の制御を試みた。従来の方法で作製したNa内包II型Geクラスレート膜は、クラックが発生するなど、連続膜とはいいがたい状態であった。昨年度は、加熱条件等を変更することにより、クラックのない膜状合成に成功した。また光透過率測定から、クラックの影響が確認できない光吸収スペクトルを得た。 本年度は、薄膜合成条件のさらなる最適化を進めるとともに、得られた薄膜に対して光吸収スペクトルを評価することにより、光学特性および電子物性評価を行った。さらに、II型Geクラスレート膜に対して、SiもしくはAlを添加し、膜質の変化を評価した。その結果、SiおよびAlの添加により、クラック生成を低減させる効果を確認した。これは、不純物添加による結晶子サイズの低下が影響しているものを考えられる。また、Siを添加することにより、基礎吸収に起因すると考えられる吸収スペクトル形状がブルーシフトした可能性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はこれまでの知見をもとに、クラックの少ないII型Geクラスレートを目指して、作製条件のさらなる最適化を行った。その結果、出発材料であるGe膜を真空下において低温で長時間加熱し、その間Naの蒸着を行うことにより、クラックがほぼ見られない膜の合成を確認した。それらの試料を用いて光透過測定を行い光吸収スペクトルを比較した。異なるNa内包量を持つII型Geクラスレート薄膜において、基礎吸収に起因すると考えられるスペクトル形状が一致した。このことから、II型Geクラスレートのバンドギャップの大きさはNa内包量に大きな影響を受けないと考えられる。 さらなる作製条件の最適化および、バンドギャップやpn制御を目的として、出発材料であるGe薄膜にSiおよびAlを添加した。どちらの元素においても数%程度の添加により、従来の作製方法においてもクラックの生成が大幅に低減したことを確認した。それとともにXRDパターンの解析から膜を構成する結晶の粒径を求めたところ、SiおよびAlの添加により、結晶粒径の低下を確認した。粒径が小さくなることにより、熱処理中において膜構造を維持しやすくなり、クラックの生成が低減したと考えられる。またSiの添加により、基礎吸収に起因すると考えられる吸収スペクトルの形状のブルーシフトを確認した。これはSiの添加によりワイドギャップ化していることを示唆している。 また、THz分光法およびラマン散乱分光法を用いて、クラスレートを構成するGeのかご構造中のNaイオンの状態を評価した。異なるNa内包量をもつII型Geクラスレートにおいて、ラットリング振動と思われるピークとそのピーク強度の変化を確認した。今後さらに評価をすすめ、ラットリング振動の挙動を明らかにする。 以上の内容から、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
電界印加については、これまでは電圧を膜厚方向に印加し評価してきた。次年度は、Naの移動をより明確に評価するために、電界印加を膜の面内方向に行う。これはクラックの少ない膜を用いることにより、明確な結果が期待できる。これらの結果をもとに、II型Geクラスレート中のNaイオンの移動度や、内包Na低減およびNa内包量の面内制御に関する知見を得る。 また、SiおよびAlの添加量を変化させ、IV族系クラスレート膜の生成過程への影響を評価するとともに、バンドギャップの制御およびpn制御を試みる。 上記に加えて、電子スピン共鳴法、X線光電子分光法等を用いて、デバイス化に必要な欠陥、不純物について評価を行い、それらの電気伝導等への影響を評価する。さらには、IV族系クラスレートに適した電極材料および構造に関する知見を得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの感染拡大により、出張をともなう学会参加が大きく制限された。それにともない、主に旅費の支出が減少した。次年度は学会発表等をさらに活発に行う。
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