IV族系II型クラスレートは、原子のかご構造をもつ結晶であり、かご中にはNa原子などを内包する。内包原子を取り除いたIV族系クラスレートは半導体であり、太陽電池等の新規光デバイス用材料として期待できる。従来は粉末状もしくは小さな単結晶での合成のみ報告されてきたが、近年我々のグループで薄膜化に成功した。これまでに、Na内包IV族系クラスレートのNa量制御(Na低減)技術を開発してきたが、今後は、多様な組成を持つ膜の合成、デバイス化に向けた金属との接合技術や、電子物性評価が必要不可欠である。 本年度は、p型化を目指したII型Geクラスレート膜へのAl添加、バンドギャップエネルギーの制御を目的としたII型Geクラスレート膜へのSiの添加、またデバイス化に向けた電極形成とI-V特性評価を試みた。Alを添加した試料においては、X線光電子分光法を用いて膜厚方向のAl組成の分布評価を行い、Alの膜表面への析出および表面不純物の形成を明らかにした。Siを添加したII型Geクラスレートについては、エネルギー分散型X線分析を用いて、SiとGeの組成比を決定するととともに、X線回折パターンのリートベルト解析により、内包Na内包量の同定を行った。また光吸収特性から、Si組成の増加に従い、バンドギャップエネルギーの増加を確認した。 デバイス化への取り組みについては、異なるNa内包量をもつII型Geクラスレート膜について、多様な金属の電極を形成し、そのI-V特性を評価した。このとき、抵抗率の温度依存性を評価するとともに、光照射下における電気伝導の変化を評価した。Alを電極として用いた場合においては、高い抵抗値を観測した。これは電極とクラスレート膜の海面にAlとCとOの化合物の絶縁物を形成したためだと考えられる。また、Na内包量を大きく低減させた試料においては、光照射による電流値の増加を確認した。
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