研究課題/領域番号 |
20K03822
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
立川 真樹 明治大学, 理工学部, 専任教授 (60201612)
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研究分担者 |
長島 和茂 明治大学, 理工学部, 専任教授 (70339571)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 氷晶の衝突帯電 / 光トラップ / 光の放射圧 |
研究実績の概要 |
雷は最も身近な自然現象の一つだが、実はその発生機構は根本的なところがまだ解明されていない。雷雲の中では、氷の粒子同士が互いに衝突することによって 静電気を帯び、雷雲の下部には負の電荷が上部には正の電荷が蓄積する。こうして蓄積した電気が空気の絶縁を破って地面や雲内に放電したものが雷である。しかし、同じ物質である氷同士の衝突で正・負の電荷が生じる理由、また、正・負の電荷が生じたとしても、符号によって上下反対方向に運ばれる理由が明らかに なっていない。 本研究では、光トラップによって氷の微結晶を空中に静止させ、光の放射圧で加速した氷晶を衝突させて帯電の様子をその場観測する。衝突する氷晶の形状・衝突速度等を厳密に指定した実験から帯電の極性を決める属性を明らかにし、100年来の課題である雷雲の電荷分離機構の理解を前進させることが本研究の目的である。 前年度までの研究により、ほとんどの場合に、光トラップ内で衝突した氷晶同士は合体してしまうことが明らかになった。今年度は温度、氷晶の大きさ, 速度などを系統的に変化させながら衝突実験を継続したものの、状況を打開するには至らなかった。放射圧による運動制御を前提とする限り、氷晶の運動エネルギーが不十分で衝突分離に至らないと推測される。 一方、同じ物質である氷晶同士の衝突で電荷分離が起きる要因として、氷晶間の温度差が考えられる。そこで、熱放射計測から微小な氷晶の温度を決定するための基礎的な研究を行った。ミクロンサイズの物体の熱放射から温度を計測する手段はまだ確立されていない。そこでMie散乱の理論に基づいて熱放射スペクトルを計算する理論モデルを構築し、テスト粒子(シリカ球)の熱放射スペクトルと比較することによってその有効性を検証した。このモデルにより、氷の光学定数から微小な氷晶の熱放射スペクトルを予測することが可能になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
研究の遅延を招いている最も大きな障壁は、光トラップ内で衝突した氷晶が合体してしまうことである。電荷分離が起きるには、衝突後に氷晶同士も分離しなければならない。現在までに温度、氷晶の大きさ、衝突速度などを系統的に変化させて実験を行ったが、分離衝突が起きる環境を実現できていない。合体の一因は衝突速度の不足と考えられ、光の放射圧での加速に限界があるのかもしれない。 一方で、過冷却水滴から生成された氷晶は、はじめから帯電しているものも多くみられる。これが氷晶同士の衝突によるものとすると、光の放射圧で加速されない状態でも電荷分離が起きていることになる。初期状態でどのようなメカニズムで電荷分離が起きているかについても謎が多い。 また、合体した2つの氷晶が電場中で再び分離し、それぞれが正・負に帯電している現象が観測されている。いったん接触したあとに分離さえすれば、電荷分離が起きうることを示唆する観測結果である。 以上のように、氷晶の帯電現象については謎が多く、これこそが数百年来、雷の発生機構が未解決であった所以であろう。以上の経緯を踏まえ、研究期間の1年延長を申請した。
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今後の研究の推進方策 |
一旦合体した氷晶が分裂した際に電荷分離が生じていることに鑑みると、氷晶の破壊を伴うようなオフセット衝突を誘発することで、電荷分離を生じさせられるかもしれない。オフセット衝突については、レーザー光軸をずらすことで実現可能であることがわかっており、新しい光学設計を導入して再度光トラップを用いた氷晶の衝突実験を試みる。 また、一連の衝突実験を行う中で、複数の微粒子が衝突することなく距離を保って同時に捕捉される現象が観測されている。これは微粒子間に光の放射圧による相互作用が存在することを示唆しており、光学的な現象として興味深い。本申請テーマからは横道にそれるが、衝突を制御する手段として応用できるかもしれないため、精査していくことにする。 一方、2023年度に開発した理論モデルからは、微小な氷晶からの熱放射スペクトルが計算できる。サーモカメラなどの通常の放射温度計測器はマクロな対象を前提としているため、ミクロンレベルの微粒子からの熱放射特性を把握したうえで適切に補正を施す必要がある。光トラップ内の氷晶の温度計測法を引き続き検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度の実験は既存の装置や消耗品を用いて行ったため、予算を消化する必要がなかった。また、前年度に引き続き、氷晶の合体を防ぐ有効な手段を模索するフェーズにあり、解決策が見いだされた場合に集中的に予算措置するために、使用を控えたという側面もあった。 今年度の残予算については、主として光学系の消耗品にあてる予定である。
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