研究課題/領域番号 |
20K03823
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
末元 徹 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 客員研究員 (50134052)
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研究分担者 |
杉田 篤史 静岡大学, 工学部, 教授 (20334956)
小野 頌太 岐阜大学, 工学部, 助教 (40646907)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | フェムト秒発光 / 赤外発光 / アップコンバージョン / 金属 / 非平衡電子系 |
研究実績の概要 |
<貴金属および遷移金属における発光のモデル解析> 金属における発光スペクトルから電子の分布を導くための基礎になる放射率補正を、いろいろな表面粗さを持つ銀を用いて検証し、整合性のある情報を得るための条件と手法を確立した。この結果は論文として公表された。金の超高速発光を理解するために提案したモデルを、これまでに収集した10族遷移金属(Pt, Pd, Ni)の時間分解発光スペクトルに適用し、励起電子の緩和ダイナミクスを記述するパラメターの決定を行った。その結果、10族金属では11族金属(Au, Ag, Cu)に比較して非熱化電子の比率が小さいこと、熱化電子の初期電子温度が低いこと、緩和が非常に速いことなど、系統的な差異があることが分かった。 <測定装置の移設と整備> 昨年度、基盤研究C「超高効率超高速赤外発光計測システムの開発と応用展開」によって開発した超高速時間分解発光スペクトロメータを豊田理研より電気通信大学に移設した。この装置は、従来の装置の約1/3(設置面積)と小型化しているために、機械的剛性が高く、長時間安定性に優れている。また、4枚フィルター自動切換えにより全エネルギー範囲(1.05-0.25eV)の自動測定が可能になり、実験の効率が格段に向上した。また検知器としてAPD(アバランシェ・フォト・ダイオード)を採用しているので、光電子増倍管を用いた従来の装置に比べて、特に長波長領域で感度が高いという長所を持つ。しかし、光学系の色収差に起因するスペクトル形状の変形などの問題などがあり、豊田理研では性能を十分に発揮できない状態であった。今年度は光学系に反射集光光学系を導入するなどの改修作業と最適化を行い、ほぼ所期の性能を達成することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度末に豊田理研から電通大に輸送した時間分解発光測定装置を、年度初めより組み立て、改修と最適化の作業を行う予定であったが、COVID-19による出勤自粛、勤務時間短縮の要請があったため、実験装置の立ち上げ作業開始が3か月ほど遅れ、その後も作業効率が落ちている。さらに、立ち上げ作業中に予期しない深刻なレーザー装置の不具合が発生したために、その修理と調整に約3か月を要した。結果として研究計画は約半年遅れで進行している。
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今後の研究の推進方策 |
<装置の高度化> 時間分解発光スペクトロメータは、初年度中にほぼ必要な性能を実現しているが、強励起効果の観測には、やや励起密度が不十分なので、光学系の改造を行う。長時間積算による微弱発光の観測とリモート実験を可能にするために、制御プログラムに自動測定の機能を付加する。 <物性測定> 今年度後半に実施する予定だった実験を優先して研究を進め、年度内にできるだけ遅れを取り戻す努力をする。軽元素金属(Be, Mg, Al, Tiなど)は、フェルミ面近傍で比較的低い状態密度を持ち、電子格子相互作用は大きいという特徴を持つので、これまでに調べて来た貴金属、10族遷移金属と、励起電子の緩和ダイナミクスが異なると予想される。そこで軽元素について、時間分解発光スペクトルの系統的な測定を行い、すべての金属における緩和メカニズムの統一的な理解に向けてモデルの構築を試みる。金属の発光過程は、励起光→プラズモン→電子ホール対の生成→プラズモン→発光というエネルギーの流れで理解できることが分かってきたが、その詳細は未解明である。そこで、制御可能なナノ構造を用いてミクロな過程を調べることを計画している。杉田グループで高品質のナノスケール金パターニングができるようになったので、これを用いて発光におけるプラズモンの役割を調べるとともに、プラズモンモード間のエネルギー伝達機構を偏光相関などの手法を用いて解明する。またFIB加工によって作製したグレーティング構造や、分光用の回折格子でもプラズモンのスペクトルとの比較が可能と期待されるので、研究対象とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
各種学会がオンライン開催となり、旅費が不要になったため。次年度の物品費として使用する予定である。
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