研究課題/領域番号 |
20K03827
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
李 徳新 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (40281985)
|
研究分担者 |
本間 佳哉 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (00260448)
本多 史憲 九州大学, アイソトープ統合安全管理センター(伊都地区), 教授 (90391268)
青木 大 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (30359541)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | ウラン化合物 / ジグザグ構造 / 磁気異方性 / 電気抵抗 / 磁化率 / 比熱 |
研究実績の概要 |
近年、強磁性超伝導体URhGe、UCoGe、UGe2およびスピン三重項超伝導体UTe2などウラン化合物で現れた新奇物性が盛んに研究され、非従来型の超伝導、強磁性量子揺らぎ、奇パリティ多極子秩序など新現象と新概念が生み出された。これらの特異な現象を解明し、さらに新奇物性を発見するためには、類似な結晶構造を持つ物質群に着目して多数の新物質の開発と物性の対比研究が必要不可欠である。本研究では、ジグザグ構造を有る「235」系化合物R2T3X5(R=ウランおよび希土類金属、T=遷移金属、X=Si、Ge、Sn、In、Ga)に着目して研究を進めている。既に多数のR2T3X5化合物の結晶を成長させることを試した。その中で新物質U2Ir3Si5の単結晶およびU2Rh3Ge5の多結晶の育成に成功し、基礎物性の測定を行っている。 2021年度中、「235」系の新物質を探索しながら、U2Ir3Si5とU2Rh3Ge5で観測された一次相転移、強い磁気異方性、特異的な電子輸送特性の分析や基礎物性の測定をし続けた。4.2 Kでの多結晶U2Rh3Ge5の高磁場磁化の分析結果から、13Tの磁場の付近でヒステリシス現象を伴う明らかなメタ磁性転移が現れた。これは、ジグザグ構造に起因する一次相転移が単結晶サンプルで発生する可能性が高いことを示す。この期間に、本研究と関連するスピン三重項超伝導体UTe2の高圧下での磁性についても調べた。圧力下で反強磁性、強磁性および原子価の変動やフェルミ面の不安定に起因する複雑な磁気現象が観測された。この成果は、J. Phys. Soc. Jpn.に掲載された。なお、斜方晶構造を持つ重希土類「235」系物質R2Ni3Si5(R=Gd、Tb、Dy、Ho、Er)の多結晶を育成した。低温磁性の測定結果、Dy、Er、Ho系化合物は10Kの温度の付近で大きな磁気熱量効果を示し、低温磁気冷凍材料の有望な候補となり得ることを示唆した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、ジグザグ構造を持つ局所的空間反転対称性の破れたウラン化合物を中心とする新物質の開発と新奇物性の探索を目的とする。ターゲット物質であるウラン「235」系化合物は、空間反転対称性の破れに起因する新奇物性を示す有望な物質群と考えられている。しかし、この系物質の結晶育成と物性研究の例は、国外も含めて極めて限られている。これまで本研究により、20種類を超えるウラン化合物U2T3X5および25種類を超える希土類化合物R2T3X5の単結晶または多結晶サンプルの育成を試した。新物質としてU2Ir3Si5の単結晶、U2Rh3Ge5の多結晶および多数の単相希土類R2T3X5の多結晶の育成に成功した。基礎物性を測定することにより、一次相転移、強い磁気異方性、特異的な電子輸送特性、複雑な磁気構造などの興味深い物理現象が観察された。一方、本研究と関連する圧力下でUTe2の磁性の変化に関する研究も進んでおり、興味深い現象を確認した。これらの研究結果に関する3つの研究論文が国際ジャーナルに掲載された。実験結果のさらなる解析および極端条件下での物性測定は現在進行中である。なお、同じ「235」系であるCe2Ni3Ge5やPr2Pt3Ge5など希土類化合物では超伝導が既に報告されており、U2T3X5は興味深い物質群であることは間違いない。この研究のさらなる発展に伴い、非従来型の超伝導、多極子秩序、一次磁気相転移など新奇な電子・磁気相および相転移に伴う異常応答の発見が考えられる。さらに、本研究では、磁気熱量効果が高い希土類「235」系物質がいくつか発見された。これらは低温磁気冷凍材料の有望な候補と見なされた。現在、構造の解析・確認が行われているウランおよび希土類「235」系化合物合金がいくつかあり、その中には新しい単相物質が存在する可能性が高い。
|
今後の研究の推進方策 |
多数の「235」系新物質の成功開発と外場制御下それらの新奇物性の発見は本研究の主な目標である。その目標を達成するために、来年度は、引き続きテトラアーク炉を用いてチョクラルスキー法あるいは高温電気炉を用いてフラックス法でU2T3X5系化合物中心とする未知物質の探索と単結晶育成に挑戦する。また、関連する希土類R2T3X5の結晶育成を試み、新しい物質を探索する。育成した“235”系物質および関連する物質の結晶に対し、そのパリティ多極子秩序など電子状態を外場によって効果的に制御し、外場制御下で結晶の基礎物性の測定と解析を行う。特に、擬1次元的なジグザグ構造に対しては、一軸性の圧力をかけた物性測定は有効な手段であると考えられ、圧力下での物性測定を行なう予定である。磁場誘起相転移を観測するために、東大物性研強磁場コラボラトリーおよび金研強磁場センターの共同利用装置を利用して、高磁場磁化を測定する。具体的には、以下の四つの過程を通じて研究を進める。 (1)結晶育成: U2Rh3Ge5およびU2Rh3Sn5の単結晶育成を引き続きチャレンジする。また、希土類元素も含め未知の「235」系化合物の結晶育成を試み、新しい物質を探索する。 (2)試料整形・品質評価:X線回折装置を利用して試料の結晶構造および格子定数を決定し、結晶品質を評価する。X線ラウエカメラを利用して結晶軸を決定し、放電加工機により試料を整形する。 (3)物性測定:主に外場制御下で電気抵抗、磁気抵抗、比熱、acおよびdc帯磁率など基礎物性を測定する。なお、圧力および強磁場下での物性測定を行う。 (4)データ解析・物性考察:データ解析は主に電気抵抗、磁化、比熱、ac/dc磁化率など基礎物性の温度、磁場、圧力依存性を調べる。電子状態を特徴づけるパラメーターを決め、外場の制御効果を究明する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
過去2年間、新型コロナウィルスの影響で出張を避ける必要があるので、予定していた国際会議や日本物理学会に現地参加することはできなかった。また、新型コロナウィルスの影響により、予定していた仙台への複数回の出張(交流磁化率および高磁場磁化を測定するために)は自粛したため次年度繰越額が生じた。 次年度、コロナウィルス感染対策による出張自粛などが解除されたら、国際会議や日本物理学会に現地参加し、出張測定を再開する、繰越額が旅費に充てる。また、試料作製用金属原料や物性測定装置に必要なヘリウムガスなどの消耗品の購入費として使用する。
|