研究課題/領域番号 |
20K03828
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
新居 陽一 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (80708488)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | フォノン / マルチフェロイクス / フォノン角運動量 / 磁気弾性結合 / キラリティ |
研究実績の概要 |
本研究では格子振動の量子であるフォノンを対象として、非相反性の巨大化と逆効果を用いた対称性制御を実現することを目的とする。本年度は主に以下の2つの内容を進めた。 1. 表面弾性波による磁化制御:表面に局在したフォノンである表面弾性波を用いて磁化の正負を選択的に制御できる手法を発見した。表面弾性波(特にレイリー波)は応力ゼロという表面の境界条件によって生じる表面特有のモードであり、格子の回転運動に起因する角運動量を有する。本研究ではこの角運動量を使って強磁性Niの磁化制御が(符号を含めて)可能であることを示した。また磁気弾性結合を考慮した理論モデルを使って磁化制御が結果を再現できることも示した。これによって本効果がフォノン系とスピン系の角運動量変換に起因することを明らかにした。 2. キラル磁性体MnSiにおけるフォノン版ラシュバ分裂の観測:電子系では空間反転対称性が破れるとスピンと運動量が結合したスピン分裂バンドが生じることが知られている。他方、時間反転対称性が破れるとゼーマン効果として知られるように波数空間において一様なスピン分裂バンドが生じる。本研究ではMnSiにおいてフォノンに対する対称性の破れの効果を調べた。その結果、空間反転対称性の破れに起因する明瞭な音響モード分裂を観測した一方で、時間反転対称性の破れの効果は非常に小さいことが分かった。今回の知見から、物質中で如何に大きなフォノン角運動量を発生させ機能開拓につなげるかの指針が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の中心課題は、フォノンを用いて磁化や電気分極などの物質の対称性を制御することである。その意味で、表面弾性波を用いた磁化制御は一つの大きな成功例である。一方、フォノン角運動量が対称性の破れとどう関係づけられるかに関してもMnSiを例に理解が進んでいる。これを推し進めることで、表面だけではなく物質中のフォノンによる物質相制御に繋がる基礎が構築される。以上より、研究はおおむね順調に進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
対称性の普遍的な制御を実現するためには、物質表面ではなくバルク中を伝搬するフォノンを用いる必要がある。ただしバルクのフォノンモードが有するフォノン角運動量は高い周波数でなければ顕著な効果が見られない。高周波のバルクフォノンを利用しようとすると、一般的な超音波測定技術では到達できない。そこで今後は光学的な手法を組み合わせた実験系の構築を推し進めて、フォノンのもつ電気的・磁気的な性質の解明と機能開拓を進めていく。
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