フォノンの非相反物性に関して、主に4つの成果を得た。 一つ目はフォノン分散に及ぼす対称性の破れの研究である。キラル磁性体MnSiに関してX線非弾性散乱と第一原理計算バンド計算を行ったところ、フォノン角運動量の符号に依存した、いわばラシュバ型分裂が生じていることを明らかにした。一方で低温で磁化が飽和する1T程度まで磁場を加えたがフォノンバンドの変化は認められず、磁化とフォノンの直接的な結合は観測限界以下の小さなものであることが分かった。 二つ目は表面弾性波による磁化の制御に関する研究である。表面音波(レイリー波)のもつフォノン角運動量を利用し、これを磁気弾性結合を介して強磁性体に転写することで磁化を選択的に制御できることを明らかにした。また磁化ダイナミクスの数値計算からも理論的にも磁化制御が可能なことを示した。 三つ目は巨大な磁気弾性結合を示すTb化合物に着目し、その基礎物性を調べた。量子スピン液体の可能性が指摘されているTb2Ti2O7を対象として、超音波や磁歪測定を行った結果、低温の四極子秩序温度よりずっと高温から軌道相関が存在していることを明らかにした。 四つ目はGHz領域におけるトポロジカルフォノニック結晶の実現である。圧電体LiNbO3表面上に微細な金属ピラー配列を作成することでGHz領域のトポロジカル表面音波状態を実現した。走査型マイクロ波顕微鏡によって、伝搬の周波数依存性を調べることで、バンドギャップの形成と、それに伴うトポロジカルエッジ状態の実現を実証した。
|