研究課題/領域番号 |
20K03829
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
瀧川 仁 東京大学, 物性研究所, 教授 (10179575)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | スピン軌道強結合系 / レニウム酸化物 / 核磁気共鳴 / 多極子秩序 |
研究実績の概要 |
[1] スピン軌道強結合金属Cd2Re2O7は常温で立方晶パイロクロア構造を持つが、Ts1=200KおよびTs2=120Kにおける相転移によって、反転対称性のない二つの異なる正方晶構造に変化する。この相転移の機構として、スピン軌道結合の強い電子系が自発的に反転対称性を破り、フェルミ面のスピン分裂を引き起こす可能性が理論的に提案されている。これまで我々は、相転移によってCdサイトのNMRスペクトルが分裂することを見出し、NMRシフトテンソルの変化に対応する空間群の既約表現を特定し、これに基づいて電子系の秩序変数の対称性を同定するという新規なスペクトル解析法を開発することによって、低温相の解明を進めてきた。しかしCdサイトは常温で反転中心にあるため、反転対称性の破れだけではスペクトル分裂を示さない。そこで本研究では、反転中心にない2種類の酸素サイトに17O同位体を導入した試料を作成し、17O―NMRによって反転対称性の破れの効果をより直接的に検証することを試みた。これまでに、[001]方向の磁場下におけるTs1以下でのNMRスペクトルの分裂の温度依存性を詳細に測定し、反転対称性の破れと立方晶-正方晶の対称性低下に伴うスペクトル分裂を同定した。
[2] ダブルペロブスカイト構造を持つ5d遷移金属酸化物Ba2MgReO6では、立方対称の結晶場と強いスピン軌道相互作用によって、Reイオンは有効角運動量Jeff=3/2の状態にあり、35K以下で電気四極子の反強秩序、18K以下で傾角強磁性秩序を示す。本研究ではReサイトを正八面体状に取り囲む酸素サイトの17O―NMRを用いて、基底状態におけるRe(5d)―O(2p)混成軌道に広がった磁気双極子、電気四極子、磁気八極子、それぞれの値を実験的に決定し、NMRによって多極子秩序の実空間におけるイメージングが可能であることを実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Cd2Re2O7について:①点群対称性に基づくNMRシフトテンソルの解析法を開発し、Cdサイトの結果に応用した。②[001]方向の磁場に対して酸素サイトのNMRスペクトルの温度依存性を測定し、Ts1以下でのスペクトル分裂の詳細を明らかにした。 Ba2MgReO6について:①酸素サイトのNMRスペクトルの温度・磁場方位依存性を詳細に測定し、多極子秩序によるNMRスペクトルの分裂から、電場勾配および超微細磁場を実験的に決定した。②Re(5d)―O(2p)混成軌道モデルによって、磁気双極子、電気四極子、および磁気八極子の多極子成分をパラメータとした電場勾配と超微細磁場の定式化を行い、実験データを定量的に解析することにより、多極子成分の殆ど全ての値を実験的に決定することに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
Cd2Re2O7について:①酸素サイトのNMR測定をより低温やまた他の磁場方向に対して、継続する。②酸素サイトのNMRの結果を、Cdサイトに適用した方法を用いて解析し、電子系の秩序パラメータを確実に決定する。③試料に電流を印加しながらNMRの測定を行い、反転対称が破れた相におけるフェルミ面のスピン分裂の効果を実証する。④高圧下の測定を開始する。 Ba2MgReO6について:NMRによって決定された基底状態の多極子成分の結果が、有効角運動量Jeff=3/2に基づく理論モデルによってどこまで定量的に再現できるか、理論家との共同研究を進める。
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