研究課題
近年、強いスピン軌道相互作用と電子間相互作用が共存する物質における新規な量子状態が興味を呼んでおり、5d遷移金属酸化物はその舞台として注目を集めている。本研究では、5d遷移金属元素Reを含むスピン軌道強結合金属酸化物Cd2Re2O7およびダブルペロフスカイト型絶縁体磁性体Ba2MgReO6において実現する電子系の秩序状態を、核磁気共鳴実験によって微視的に解明した。常温で立方晶パイロクロア構造(相I)を持つCd2Re2O7は、温度200Kにおいて反転中心を持たない正方晶構造に転移し(相II)、更に低温(120K)で別の正方晶構造に変化する(相III)。これらの相転移の機構として、スピン軌道結合の強い電子系が自発的に反転対称性を破ることによって、フェルミ面のスピン分裂を引き起こす可能性が理論的に提案されていた。本研究では、相転移に伴うCdサイトのNMR共鳴線の分裂から各相におけるNMRシフトテンソルを決定し、これに対応する空間群の既約表現から電子系の秩序変数の対称性を同定するという新しいNMRスペクトルの解析法を開発することによって、低温相の対称性を実験的に確立し、さらに相Ⅱと相IIIの間に低対称の直方晶相が存在することを発見した。またダブルペロブスカイト構造を持つ5d遷移金属酸化物Ba2MgReO6では、立方対称の結晶場と強いスピン軌道相互作用によって、Reイオンは有効角運動量Jeff=3/2の状態にあり、35K以下で電気四極子の反強秩序、18K以下で傾角強磁性秩序を示す。本研究ではReサイトを正八面体状に取り囲む酸素サイトの17O―NMRを用いて、基底状態におけるRe(5d)―O(2p)混成軌道に広がった磁気双極子、電気四極子、磁気八極子、それぞれの値を実験的に決定し、NMRによって多極子秩序の実空間におけるイメージングが可能であることを実証した。
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Nature Communications
巻: 13 ページ: 2141-1-8
10.1038/s41467-022-29757-9
Nature Physics
巻: 19 ページ: 92~98
10.1038/s41567-022-01816-4