研究課題/領域番号 |
20K03830
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山内 徹 東京大学, 物性研究所, 技術専門員 (10422445)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 3d1電子正方格子Mott絶縁体 / 八重極子秩序 / 圧力誘起異常金属相 |
研究実績の概要 |
K2NiF4構造をとる Mott絶縁体alpha-Sr2VO4で,本課題研究代表者が近年発見した約7 GPa以上の静水圧力下で出現する異常金属相の電子状態を解明することを目的にする.このため,約7T,12GPa程度までの圧力下磁場中電気測定を中心に行うことを予定している.alpha-Sr2VO4には,3d遷移金属酸化物であるにも関わらず,スピン軌道相互作用λが無視できないとの理論サイドからの主張がある.この系の基底状態は,大きなλが期待できるIr酸化物や重い電子系で出現する,八重極子秩序であるとの主張である.この主張が正しい場合alpha-Sr2VO4は,Mott絶縁体相が実現するほどの電子相関,即ち3d遷移金属酸化物特有の大きなU/t(U:onsite Coulomb 相互作用, t:band幅)をもち,尚且つ基底状態を支配するほどのλをもつ,従来にないclassに分類される稀有な物質と考えられる.この背景のため,圧力によるMott転移の高圧側でこの系に現れる,室温から低温に向けて金属-絶縁体-金属という複雑な転移を経て,基底状態に現れる特異な金属相は大変興味深い. 本申請課題では上記の目的遂行のために,我々が2007年から2012年にかけて建設した圧力下磁場中物性測定装置を使用する.この装置は科研費基盤研究(S)No.18104008(代表 研究者:上田寛)のなかのひとつのプロジェクトとして建設したもので,プロジェクト終了後2017年まで稼働していたが,その後使用が途絶えているため,多少のメインテナンスや調整を必要とし,今年度はほぼそれに費やした.特にマグネット電源の不調が問題である.現行の機種はすでに生産しておらず,メーカによると修理も困難とのこと,そのため今年度の経費で新しい電源を購入することを検討している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
予定からは,やや遅れていると判断している.まず,最終年度を2019年から2020年に延長した科研費基盤研究(C)No.17K05531(代表 研究者:山内徹)に関して,私自身その確認再現実験などに時間を取られて,本課題へのエフォートを多くは割けなかったことが挙げられる.ひとつの油圧発生ユニットからふたつの高圧装置に油圧を供給している,建設費節約のための仕様もあだになった.再現実験などに別の高圧装置を稼働していると,本研究で使用する予定の装置に油圧が供給できない為,予備実験などを同時進行することができなかった.さらに,圧力誘起するalpha-Sr2VO4の異常金属相を観測するためには,化学量論的に不定比を高度にコントロールした単結晶試料が必要であるが,2020年2月以降のcovid19パンデミックの影響や共同研究者の研究環境変化などで,その供給がかなり立ち遅れていることもある.以上2つの理由から,予定からの遅れは否めない状況である.装置の状況も上述したように,マグネット電源が完全とは言い難いが,磁場の値に或るオフセット値が乗る現状でも,一応の測定は可能であろうと思われる.また,試料供給に関しては共同研究者に頼らざるを得ず,先方もあと半年程度と仰って頂いているので,供給を待ちたいと考えている. 以下は,見通しになるが,目的としている高圧下物性測定は主に電気伝導度測定であるので,実験技術的に開発が必要があるわけではなく,試料が供給され次第,本測定に取りかかれる予定である.
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今後の研究の推進方策 |
試料結晶の供給があれば,帯磁率や電気抵抗率などの常圧下での物性測定による試料評価を経て,本測定である高圧力強磁場複合極限状態下での電気抵抗率測定を行うことができる.これは通常の圧力下物性測定の手順で,特に実験技術的な開発は要しない.その準備期間は1ヶ月もかからないと予測できる.本研究課題上の最も大きなリスクは,試料結晶の供給が遅れることである.このリスクをヘッジする意味で,私自身が合成および結晶成長,不定比性制御まで行ったbeta-Na0.33V2O5をもう1つのターゲットに設定している.高品位alpha-Sr2VO4結晶の供給を待つ間,この物質で高圧力強磁場発生装置を用いて,以下の測定を行う. この物質は上述した科研費基盤研究(S)のテーマの1つとなった圧力誘起超伝導体で,高圧力強磁場下で,上部下部臨界磁場を求める測定を行ってきた.勿論,これら臨界磁場は超伝導転移温度と同様に圧力依存する.この転移温度を臨界磁場から求まる侵入長に対してplotすると,その超伝導相のクーパー対の対称性がBCS的であるとの議論ができるので,その旨論文を作成し投稿した.しかしレフリーからは,7 GPa程度の圧力下で我々が行った「交流帯磁率測定法で下部臨界磁場が求まるとは思えず,おそらくpinningを見ている可能性がある」との,もっともな指摘があった.そこで論文は一旦取り下げ,さらなる追加実験を行う機会を待っていた.この交流帯磁率を各結晶軸方向に測定し,下部臨界磁場の結晶方向依存性(異方性)を求める.この異方性を抵抗測定から求まる上部臨界磁場の異方性と比較すれば,件の下部臨界磁場がpinningなどの外因性のものに由来するわけではなく,超伝導相の性質そのものに由来するかどうかを判断できるのである.もし上部下部臨界磁場の異方性が整合すれば,この超伝導はBCS的なものであると主張できることになる.
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次年度使用額が生じた理由 |
進捗状況の欄で述べたことの繰り返しになるが,科研費基盤研究(C)No.17K05531に時間を取られて,本課題へのエフォートを多くは割けられなかったことに加え.ひとつの油圧発生ユニットからふたつの高圧装置への油圧供給する仕様も組み合わさって,本年度は装置のメンテナンスや修理に終始したことが第1の理由である.さらに第2の理由として,圧力誘起するalpha-Sr2VO4の異常金属相を観測するための化学量論比を高度に制御した単結晶試料が,2020年2月以降のcovid19パンデミックの影響や共同研究者の研究環境変化などで,その供給がかなり立ち遅れていることが挙げられる.以上2つの理由から,本研究課題に於いては,大量に液体ヘリウムなどの寒剤を使用する高圧力強磁場複合極限環境下で行う本測定を実行するに至らなかった.この状況のため,今年度の支出は抑えられ次年度使用額が生じた.さらには,次年度使用額を次年度交付額と合わせると,マグネット電源を新しくすることもできるのは,大きなメリットであると考えたのも,もうひとつの理由である.
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