研究課題/領域番号 |
20K03831
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
加藤 岳生 東京大学, 物性研究所, 准教授 (80332956)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | スピントロニクス / 磁気抵抗 / マグノン / オンサーガー関係式 |
研究実績の概要 |
スピントロニクスデバイスで注目を集めているスピンホール磁気抵抗 (SMR) の微視的理論を考察した。SMRは従来スピン拡散理論とスピン混合コンダクタンスを組み合わせることにより理論的に記述されてきた。しかしこの理論では、スピン混合コンダクタンスは現象論的パラメータとなっており、その温度依存性は予測できない。さらに、スピン混合コンダクタンスを導入することで、磁化配向依存性はその符号も含めて一意に定まってしまうという欠点を有する。そこで、本研究では系を微視的ハミルトニアンで記述し、界面における結合の二次摂動を計算することにより、界面でのスピンコンダクタンスを評価した。その結果、常伝導金属と磁気絶縁体の間の界面におけるスピンコンダクタンスをスピン感受率によって一般的に定式化することに成功し、SMRは静的部分と動的部分から構成されることを明らかにした。静的部分は温度にほとんど依存せず、界面交換結合を介した横磁場ゼーマン効果によるスピンフリップとして解釈できる。一方、動的部分はマグノンの生成あるいは消滅によって誘起され、静的部分とは反対の符号を持つことを明らかにした。またスピン波近似による計算と実験結果を比較し、低温における温度の二乗に比例した温度依存性をよく再現することも示した。さらにスピンコンダクタンスと熱スピン電流雑音の間で一般的に成り立つオンサーガー関係式を導いた。本研究では具体的な計算にスピン波近似を用いたが、モンテカルロ法などの数値計算手法を利用すれば任意の温度で適用可能である。この研究成果はPhysical Review B誌に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
出版論文は概要に示した一編だけであるが、現在、投稿中の論文が二篇、執筆中の論文が二篇あり、さらにそれとは別に一件の研究プロジェクトについて学会発表を行っている。スピントロニクスに深く関係する研究としては、(1) スピン軌道相互作用のある二次元電子系と強磁性絶縁体の接合におけるスピン共鳴の理論(論文執筆中)、(2) 量子モンテカルロ法を用いたスピンホール磁気抵抗(SMR)の温度変化の評価(学会発表済み)、(3) 一方向スピンホール磁気抵抗(UMR)と熱ノイズの間の一般的な関係式の導出(論文執筆中)がある。さらに近い将来にスピントロニクスと深く関連する研究として、(1) GaAsにおける高次高調波におけるずり応力の効果(論文投稿)、(2) 量子ラビ系を介した熱輸送(論文投稿中)、について研究を進めている。さらに新しい計算も始める予定である。これらの活動から、当初に予定していた研究計画に沿って、順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
現在進めている研究について、さらに深められる部分は深めるとともに、研究をさらに進展させていくために新しい課題にも取り組む。現在、(1) 半導体中へのスピン注入に対する微視的理論の構築、(2) スピンノイズ測定を通した磁気相の特徴づけ、などについて計算に着手する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度はコロナ感染拡大のため、当初予定していた旅費が使用できず、配分額の一部をやむなく次年度への繰越することとなった。
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